1.15.2024

[film] Sunrise: A Song of Two Humans (1927)

1月10日、水曜日の晩、BFI Southbankで見ました。
もう一回英国に渡ってきてからのBFI Southbankの最初の1本。

4つのシアターとライブラリがあるここは新作もやるし映画祭の上映もあるのだが自分にとってはNYのFilm ForumとMuseum of the Moving Imageと並ぶ映画の学校で、前回にいたときは4年間で463本見ている。その時の最後のはコロナの(再)ロックダウンになる前、2020年12月の”How Green Was My Valley” (1941)だった。

邦題は言わずと知れた『サンライズ』。イントロでMargaret Deriazさんによる紹介があった。映画史に残る大名作なのであまり書くことないかも。監督のFriedrich Wilhelm MurnauがWilliam Foxに招かれてアメリカに渡って当時のドイツ映画からの蓄積と先端技術のありったけをぶちこんだやつ。

第一回のオスカーで”Unique and Artistic Picture”っていうこれ限りとなったアワードを、Janet Gaynorが主演女優賞を、撮影賞はMary Pickfordのお気に入りだったCharles RosherとNYで写真家をしていたKarl Strussのふたりが撮っている。

Murnauがやっていたドイツ表現主義的ななにかをアメリカ映画に持ち込む、ってどういうことかというと、映画的な出来事や世界の様相あれこれをフィルムにうつしとる、のではなく、フィルムのなかに世界のすべてを現出させる、そんな”Metropolis” (1927)みたいな壮大な大風呂敷を描こうとしていて、当時としてはものすごいお金をじゃぶじゃぶ使っているものの、それが実現できてしまっていることがわかる - いま見てもどきどきはらはらできるのってやっぱりすごい。

土地の名前も人の名前もいらない。男(George O'Brien)がいて、その妻(Janet Gaynor)と赤ん坊がいて、男を誘惑してあの女(妻)を殺しちゃいなさいよ、ってそそのかす都会の女(Margaret Livingston)がいて、男のだらしなさと弱さが、田舎女(妻)の一途さと清らかさが、都会女の悪魔のような毒と闇が農村から都会までを覆い、サスペンスとホラーとメロドラマが嵐を含むあらゆる天候のなかで渦を巻く。ふたりを結ぶひとつの歌が陽を昇らせる。ここでは当時の世の中の嫌なところも含めて全部が見渡せて、なにかを説明するようななにか、なんて一切いらないの。これの少し前の”Der letzte Mann” (1924) - 『最後の人』が世の中の闇と悲惨をぜんぶ呼び寄せてなにもかも凍らせてしまったのと同じように。

あとこれ、でっかいスクリーンで見てでっかい音で聞くと改めて気持ちよいなー、って。


Land des Schweigens und der Dunkelheit (1971)

上のとは関係ないのだが、同じ日に”Sunrise”が終わってからBFI Southbank内のシアターを移動して見ました。英語題は”Land of Silence and Darkness”。

1月のBFIではWerner Herzogについてのドキュメンタリー”Werner Herzog: Radical Dreamer” (2023)公開に絡めて彼の回顧特集 - “Journey Into the Unknown: The Films of Werner Herzog”をやっていて、こんな初期のドキュメンタリーも見ることができた。

盲聾者 - 視覚と聴覚の重複障害者であるドイツ人女性 - Fini Straubingerが紹介され、彼女の(見えない聞こえない)世界がどんなふうかが示され、彼女が同様の盲聾者を訪ねていって、彼らがどんな日々を送っているのか、を描いていく。彼女は歳を経てから障害者になったのだが、生まれつきそうである青年も出てきて、そういう人達の普段の暮らしの様子とか表情とか - 彼らは当然自分たちがフィルムに撮られていることを - そもそもフィルムや映画がどんなものかすらわからないかもしれないし、どんなに近寄って描写を重ねていっても彼らが自身の感覚で感じとっている世界がどんなものか、表すことはできないし .. そういったことも考えさせつつ、触覚が感覚のすべてであるようなところで例えば水とはどういうものかを知るのにシャワーを浴びたりする姿を追う。

それは本当に「追う」だけですこし離れた傍でカメラを廻していくことしかできないのだが、それでも彼らがそうやっている、生きている姿にはなんだか胸を打たれてしまう。Rolf Illigによるナレーションも最小限のことしか語らない。

彼らは、まだどこかで生きているのかしら? 生きていてほしいな – というか彼らのような人たちは周りにいくらでもいるのだよ、って。

終わって、ごくふつうに自然に拍手が起こって、そうなったことについてもとても納得したのだった。

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