12.07.2023

[film] The Lost Moment (1947)

12月2日、土曜日の昼、シネマヴェーラの『文学と映画』特集で見ました。もう止まらない。

原作はHenry Jamesの”The Aspern Papers” (1888) - 『アスパンの恋文』。原作と同じタイトルで作られた2018年の英独映画は未見。監督は俳優でもあるMartin Gabel。

邦題は『失われた時』。Henry Jamesがフィレンツェ滞在中に聞いたMary Shelleyの異母姉に纏わる実話が元になっていて画面に出てくる詩人のポートレートはPercy Bysshe Shelleyのそれ、だって。

19世紀の詩人Jeffrey Ashtonが恋人に宛てて書いた恋の手紙を探し求める出版人の Lewis (Robert Cummings)は、詩人の当時の恋人で手紙の受取り人だったJuliana Bordereau (Agnes Moorehead)がまだ生きている、という情報を得て、ヴェネツィアにある彼女の邸宅に向かう。彼自身がJeffrey Ashtonの熱烈なファンだったし、その幻の書簡集を出版すればベストセラーの一攫千金間違いなさそうだったし。

でも玄関で応対に出てきた侍女は明らかに何かに怯えて恐れているようだし、彼女を使っている家政婦の振るまいも口調も意地悪だし、家のすべてを仕切っているTina (Susan Hayward) - Julianaの姪だという - は氷のように冷たく怪しい。でもなんとかよぼよぼで椅子に座った枯れ木のようなJulianaに会うことができたし、彼女が要求してくる法外なお金を気前よく払って暫く屋敷に滞在させてもらうことに成功する。

そのうち邸のどこかから音楽が聴こえてきて、それに導かれるように奥の部屋に入るとドレスも髪型も替ったのか替えられたのか目がどこかにいっちゃったTinaがいて、自分はJulianaなのだと言う… ではあの老婆は… ? そしてJeffreyの書簡は… ?

お屋敷設定も画面の雰囲気もどうみたってホラーでしょ、なのだが、ぎりぎりどうにかサイコホラー、程度に留まってしまって、終わりもなんかもこもこ部屋の暗がりにフェードアウトして一夜の夢、みたいになってしまったのはやや残念だったかも。お屋敷の雰囲気も猫も、クールなSusan Haywardも最後に立ちあがるAgnes Mooreheadも、一見いい人ふう(でも裏は.. )のアメリカンのRobert Cummingsも悪くないのになー。


The Breaking Point (1950)

上のに続けて見ました。 邦題は『破局』。
原作はErnest Hemingwayの“To Have and Have Not" (1937) - 『持つと持たぬと』。Howard Hawksが原作とおなじタイトルで1944年に映画化したやつ – 邦題は『脱出』- 脚本にWilliam Faulknerが参加してHumphrey Bogart、Lauren Bacall 、Walter Brennanが登場する豪華版のとは雰囲気から何からぜんぶ全然ちがうのだが、こちらもまったく悪くなくて地続きなかんじ。監督はMichael Curtiz。

釣船 Sea Queen号の船長をやっているHarry Morgan (John Garfield)は妻 (Phyllis Thaxter)と娘ふたりに囲まれて家庭はそこそこ平和で幸せなのだが船の金繰りがうまくいかなくて、陽気だけど怪しい金持ち風でぶとその連れLeona (Patricia Neal)を乗せたら運賃を踏み倒されて、困ったのでしぶしぶ怪しい弁護士Duncan (Wallace Ford)が持ってきた話 - 8人の中国人をメキシコからカリフォルニアに密入国させる仕事を受けたら、受け取った代金が足らなかったので岸に戻って連中を下ろして、その際のごたごたで引率していた奴を撃っちゃって、やれやれさいてーだわ、って戻ると船を取りあげられて散々で、完全にお手上げになってしまったので最後の最後の賭けでもういちどDuncanの仕事を受けることにする。

今度のは競馬場の売り上げ金をかっさらう予定のギャングたちを犯行後に乗っけて沖のほうに逃げる、というやつで、強盗はうまくいったのだが車に乗る前にDuncanは撃たれて消えて、危ないから来るな、って言ったのに乗りこんできた相棒のWesley Park (Juano Hernandez)もギャングが乗り込んできた直後にやはり撃たれて海に沈められ、ぜったいこうなる、って予測して銃器を仕込んでおいたHarryとギャングのガチの撃ち合い殴り合い - 狭い船内の至近距離でのどんぱちが痛そうで - になって…

この映画でのHarryはとにかくずっとどこまでもついていないので、どのへんが”The Breaking Point”だったのか、最初に踏み倒されたあたりか、銃で中国人を殺しちゃったあたりか、苦虫顔が止まらないJohn Garfieldにしてみればぜんぶだ、ずっとだ、なのかも。HarryとLeonaの仲を疑った妻がいきなり髪をブロンドに染めて子供達にぜんぜん似合わないよママ、って引かれるあたりだったりして。

最後にパパはどこ? って消えてしまったWesleyのうちの坊やがひとり..

でもあんなことになった後は、もう船の商売は二度とやらない/できないであろう、かわいそうなHarryのうち..  って。

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