12.10.2023

[film] Napoleon (2023)

12月3日、日曜日の晩、109シネマズ二子玉川のIMAXレーザーで見ました。
監督はRidley Scott、”The Last Duel” (2021)に続く歴史もの。脚本はDavid Scarpa。

ぜんぜん関係ないのだが、この日の昼にシネマヴェーラで見た”Today We Live” (1933) - 『今日限りの命』にウェリントンっていう最強のゴキブリ(リアル)が出てきて、この映画のネタと繋がったのがちょっと嬉しかった。

冒頭がフランス革命でMarie Antoinetteがギロチンされる場面で、その様子をコルシカから見にきてじーっと見つめて動かない、そんなNapoleon Bonaparte (Joaquin Phoenix)がいる。苦虫の仏頂面で不気味で何を考えているかわからないギャングの親分のような挙動が最後まで続く。彼をフランスの皇帝たらしめた天才的な戦術家としての側面は、結果として示されるだけで、しかもそれが史実として不正確なところも多い - 専門家ではないので知らんが - ときたら評判も悪くなろうもんじゃ… なのかしら。

ギロチンの後、1793年、港町トゥーロンに陣取っていたイギリス軍を夜襲で蹴散らして名をあげると、国内の恐怖政治を終わらせ、王党派の反乱デモに向かって大砲ぶっ放して抑え込んで内政を掌握し、文句言えるなら言ってみろ、状態にまで成りあがる。

そうしながらNapoleonは子連れの娼婦Joséphine (Vanessa Kirby) と出会ってめろめろになり、彼女も彼を愛して呪いをかけるかのように縛りつけて結婚して、なのに世継ぎができないのが悩みで戦よりもそっちの方でイラついて狂っていって、ピラミッドに大砲をぶちこむエジプト遠征中も彼女の浮気を聞くと飛んで帰っていろいろ大変、になる。

以降、有名なアウステルリッツの戦いもボロジノの戦いも圧倒的な勝利、というよりは両軍勢にものすごい量の死者数 - エンドロール手前でフランス側の戦死者の数字が出てきて呆れる - を出して、戦闘の場面はいかにもRidley Scottぽい、敵も味方もよくわからず血も涙もない即物的な肉と泥にまみれたどす黒いでろでろが続いていくのに彼の頭のなかは空っぽか、常にJoséphineの方に飛んでいくかで、Duke of WellingtonとのBattle of Waterlooでも、最初の段階から負けるのがわかっているようなのに、突っ込んでいって揺れていて、とにかく死を恐れていないことだけはわかる。

従来のナポレオン = 英雄像を覆す、というより、結婚式を挙げても戴冠式を経てもずっと内側にぶすぶすと何かを燻らせたままで、それがなんなのかはよくわからず、皇帝になる人ならもっとコミュニケーションとか世渡りに長けたものでは? というおおもとがなんか歪で変だし、Joséphineとの行為もまるで動物の交尾だし、この人だいじょうぶなの? というやばさで最後まで引っ張って、歴史もの、としての風格とか大作感はあんましない - その辺はぜんぜん狙っていなかったのでは。

なんといってもJoaquin Phoenixなので、向こう側に渡ってしまった後のやばさと、向こう側に渡る境界線上をうろうろしている不審人物のそれと、今回のはどちらかというと後者で、彼の主演作でいうと”You Were Never Really Here” (2017) の、とんかちで敵をぶんなぐる殺し屋の挙動が一番近い気がした。皇帝が”You Were Never Really Here”っていうのもまたなんというか。

その反対側で、皇帝の愛を獲得した後、彼があっち側に行ってしまってからどんどん幽霊のように透明になっていくVanessa Kirbyが圧倒的によくて美しくて、”The Last Duel”で見事にバカな男どもをあぶり出したJodie Comerと同様に、彼女のために戦場に向かって土地を荒らし、大量殺戮を行って、そんなでもいまだに評価されたり信奉されている皇帝、という像が伝わってくる。

『首』もそうなのか知らんが、歴史上の偉人・有名人をこんなふうに描く - 貶めるというよりあれだけのことをした人物は同時にこれだけのこともしていたのだ - まともじゃない、酷いよね、っていうのは「普通の」感覚としてもっておくべきなにかで、ここのNapoleonの描き方って、はっきりと最近になって増えてきた気がする独裁者 - ロシアの、シリアの、北朝鮮の、中国の、イスラエルの、思い浮かべただけで吐き気のする鼻持ちならない連中の貌を思い起こさせる。Napoleon信奉者には我慢ならないかも知れんけど、この連中に連ねてしまうことにそんなに違和感はなかったかも。

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