10.19.2023

[film] The Lost King (2022)

10月8日、日曜日の昼、日比谷シャンテで見ました。邦題は『ロスト・キング 500年越しの運命』。

監督はStephen Frears。原作は主役のPhilippa Langley(共著)による"The King's Grave: The Search for Richard III”を、出演もしているSteve CooganとJeff Pope が脚色している。 楽しい音楽はAlexandre Desplat 。 登場人物も含めてぱりぱりの実話、駐車場の下から見つかったリチャード三世の骨、の話はその異様さも含めて結構なニュースになったのでまだ憶えている人も多いのでは。

2人の子供を抱えて会社勤めをしているPhilippa Langley (Sally Hawkins)は自身の障害を抱えてがんばってきたものの会社での昇進はもはや絶望的で、家から出ていった夫のJohn (Steve Coogan)は子供たちの面倒は見てくれるものの生活費の補助までは無理(だから働け)って言ってきてこの先どうしたものか、になっている。

そんなある日、子供の付き添いで行ったシェイクスピアの『リチャード三世』のお芝居を見て、世間的には不細工で傲慢で残忍で王の系譜図のなかではみんなの嫌われもの、とされてきた彼って、そんなような悪意ある対抗勢力の何者かによって捻じ曲げられて見られて伝えられてしまっただけで、本当はそんな人ではなかったのではないか、と、舞台上で彼を演じる役者と目が合った瞬間にふと思ってしまう。

気になってきたのでエジンバラの古書店(あそこたぶん行ったことある)でリチャード三世に関する本を買って、パブでリチャード三世について語りあうおたくのサークルに入ってぶちまけるように話してみると、彼女が思ったことはそんなに間違っていないような気がしてきて、嫌われ者とされてしまった彼の墓が見つかっていない件も気になりだすと、彼のあの目が探してくれ、って訴えているような気がして、自分で調べて専門家にも当たってみると、範囲とやるべきことが絞れてきた気がして、その場所に行ってみるとそこは社会福祉事務所の駐車場でアスファルトで覆われていて、でもそこのある一画の”R”ってマークされたとこ - ただの”Reserved”なんだけど - で何かが彼女に触れた - 気がした。

すべてが「そんな気がして」、に突っつかれて動かされて会社にも行かなくなってしまう彼女の目の端にはあの舞台にいたRichard (Harry Lloyd)が頻繁に現れてこちらをじっと見つめて何かを語らんとしているようになり、周囲は前からそんな気配はあったけどPhilippaはいよいよおかしくなっちゃったのかも、と距離を置くようになっていく。 この辺、客観的に見れば少女漫画的な妄想に突き動かされたちょっとかわいそうな女性の物語、のほうに転がっていくかと思うのだが、Sally “Happy-Go-Lucky” Hawkinsの痛みを抱えつつも笑いが強張ってしまっても前を向いて歩いていくすばらしい演技がひっくり返す、とまでは言わないが有無を言わせずにぐいぐい引っ張っていくので目を離すことができない。

やがて彼女の熱がとうとう考古学者と市当局を(それぞれの思惑はあるものの)動かして駐車場を囲って穴掘り部隊を呼びこみ、その資金が足らなくなってきたらクラウドファンディングが炸裂して補ってくれて、そしてある雨の日、ついに王が…  いつも彼女の視界にやってきたリチャードが馬に乗って堂々と登場するシーンは、ちょっと素敵でいいなー、ってなる。

そして一旦そんな「発見」に値する何かが現れるといろんな連中がやってきて彼女の手から手柄を引き離そうとする - この辺はRalph FiennesとCarey Mulliganの”The Dig” (2021)で描かれたSutton Hooの遺跡のと同じような。 英国における勝手に埋めたくせにわかんなくなって、掘りだして騒ぐ、犬かよ…問題というか。

失われた王の、その失われた何かを発見した女性は、彼女自身の失われた何かも.. っていうドラマの方に安易に持っていくというよりも、単に好きになって見つけたいと心底思ったものをついに見つけたんだ! っていうその不思議なパワーと歓喜の方を見るべきなのではないか、って。

でもそれよりも、なんといってもSally Hawkinsだなー。 彼女が次のPaddingtonに出ないのは本当にかなしい。

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