11.24.2022

[film] Mrs. Harris Goes to Paris (2022)

11月18日、金曜日の晩、109シネマズ二子玉川で見ました。『ミセス・ハリス、パリへ行く』。
原作はPaul Gallicoの小説”Mrs. 'Arris Goes to Paris” (1958) – 英国でのタイトルは“Flowers for Mrs Harris”。

1957年のロンドン、バタシーの辺りで掃除婦 – 契約している家に通ってお掃除してまわる仕事 – をしているAda Harris (Lesley Manville)がいて、戦争に行ったきり戻ってこない夫を待ちながら仕事仲間のVi (Ellen Thomas)や飲み仲間のArchie (Jason Isaacs)と毎日慎ましく楽しく暮らしていて、ある日掃除する先のけちなお金持ちLady Dant (Anna Chancellor)のクローゼットにある豪華なドレスを見せられてぽーっとなり、これがほしい! とパリに行くためのお金を貯めようと思って、ドッグレースに大金を賭けたり(大負けしたけど実は)、夫の戦死の通知と共に遺族年金が… とかあって、現金を握りしめて初めてのパリに飛ぶことになる。

駅で寝泊りしているおじさんたち(よい人たち)に聞いてHouse of Dior – あの、50年代のDiorだよ! に着いて、オートクチュールのお披露目商談会に入ろうとしたところで門番のように冷酷な支配人Claudine (Isabelle Huppert) - “Phantom Thread” (2017)でLesley Manvilleが演じていた役柄 - に止められて招待状もなにもないなら入れないよって意地悪されるのだが、その場にいた公爵Marquis de Chassange (Lambert Wilson)に入れてもらって、次々に出てくるモデルさんの纏うドレスにぽーっとなりつつ欲しいドレスの番号を紙に書いて(あんなのぜったい決められない)でもやはり隣の金持ちに意地悪されて一番ほしかったドレスは落とせなかったけど、札束をちらつかせたのが効いたのかアトリエで採寸しましょう、って言われてやったー、になる。

でも宿もなにもない状態で採寸に通ったりどうするの? になると、そこにいた会計担当のAndré (Lucas Bravo)とモデルのNatasha (Alba Baptista)に助けてもらって(Andréのアパートに泊まる)、公爵は晩にディナーに誘ってくれて、夢のような時間を過ごすのだが、横からClaudineのいじわるがちょこちょこ入ったり、公爵の貴族目線に失望したり、Dior本人に直談判までしたりして、天国、というほどでもない。でもパリの(パリも外国も初めての)イギリス人が体験する初めての異文化、ということではよいことわるいこと含めてとても楽しい滞在記となる - 誰にとっても心当たりありそうな素敵な旅の思い出が。

こうして英国に戻ったAdaのところにドレスが届いて、でもそれを有名になりたくて泣きながら困っていたパーティガールに一晩貸してあげたら…  

どこまでもお人好しでお節介好きで、でも変に頑なだし頑固だし、自分の愛するかわいい英国人の典型のようなMrs. Harrisの行状記として、Adaの全身満面の笑顔いっぱつでとにかくハッピーになれることは確か、なのでとても好き。みんなに見てほしい。

50年代後半のパリ、街角ではストとか労働争議も盛んで汚れて荒んでいるし、ずっとサルトルを読んでいるNatashaはAndréと「即自」と「対自」について議論していたり、Adaのいる英国では(この映画のなかでは出てこないけど)Kitchen sink realismが立ちあがりつつあった頃、オートクチュール的な華やかな文化はどんなふうに受けとめられたり共存しようとしていたのか、たぶんこんなふうだったのでは、というのがふわふわしていない、ただの夢物語でないかたちで示されているような。最後のほうに出てくるClaudineの自宅とかもまた。

どんなに生活が苦しくても大切な人を失っても歳をとっても、きれいなものは断固として見たいし触れたいし、その思いを妨げるのは許さないんだからな、ってAdaは全身で訴えてくる。そういうものを目の前で見て触れて、手を延ばしてみること、その出会いの瞬間の電撃 - あの感覚だけはいつまでもとっておきたいな、って。 あーだからNYに、ロンドンに、パリに、行きたい。 いまの東京って機会も含めてそういうのが失われすぎてて−

それにしてもLesley Manvilleさんのすばらしいこと。幸せを全身で呼吸するときの彼女の笑みときたらその向こうにある過去の悲しみや辛さをも際どい数ミリの薄皮で見せてくれる、そういうやつで、英国の女優さんてほんとこういうのがうまいなー、って。Sally Hawkinsさんとかもそういうとこある。 (Isabelle Huppertさんとか、フランスの方はその真逆でぜったいに裏面を見せない見せるもんか、としている感覚があったりしない?)

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