11.07.2022

[film] 獨立時代 (1994)

10月24日、月曜日の晩、東京国際映画祭の1本め、シネスイッチ銀座で見ました。
4Kデジタルリマスター版。 邦題は『エドワード・ヤンの恋愛時代』、英語題は“A Confucian Confusion” – 儒教的混乱 – 孔子曰く云々から始まって延々問いと答えが止まらないやつ。

90年代、好景気で盛りあがる台北で、文化系事業のバブルの端っこで勃発する恋愛のとったとられたとか結婚するしないとかお金とか安定とかを巡るコメディ。日本が配給に関わったりしていることもあり、当時の雰囲気などはとてもよくわかる。

カルチャーイベント等を企画する会社を経営するモーリー(倪淑君)がいて、彼女の学生時代からの親友で同じ会社で一緒に働いてきたチチ(陳湘琪)がいて、チチには学生時代からの友人で恋人のミン(王維明)がいて、モーリーには大財閥の御曹司で親が決めた婚約者のアキン(王柏森)がいて、でもモーリーの様子が変なので戻ってきたアキンはコンサルタントで友人のラリー(鄧安寧)に相談する。ラリーはモーリーの会社にいる若いフォン(李芹)と不倫関係にあり、モーリーとの間も会社の状態もよくなさそうなので、チチは会社を抜けることを考え始めていたり。

あと、モーリーの姉(陳立美)は人気キャスターの有名人で、別居状態の彼女の夫(閻鴻亜)は世捨て人のようになってしまっている元人気恋愛小説家で、彼の小説の盗作疑惑をかけられた舞台演出家バーディ(王也民)は同級生でもあるモーリーに泣きついてきて…

とこんなふうに登場人物すべてがかつての/進行形の友人関係、恋人関係、利害関係(頭があがるあがらない)、などの網の目のなかにあって、これらの関係の深い浅いなどを会話のなかから把握していくのは始めのうちは大変なのだが、個々の会話のなかで取りあげられる今後あんたとはやっていけるとかやっていけないとか一緒になるとかヨリを戻せないかとかの寒暖の差や負っている傷の深さなどはわかるし、これら会話劇の合間に差しこまれる紙芝居のような字幕で大局的にどういう状況にあってどっちに向かいそうなのか、などはなんとなくわかったりもする。

台北の、生計面の苦労はあまりしなくてよいまま、学生時代からの友人関係を持ちあげるかたちで会社生活に入った若者たちが直面する仕事上の、というよりは地上から少し浮きあがった恋愛とか結婚とか別れとか、あんま考えたくない今後の人生あれこれについて正解なんてない水面上をじたばたしたりしんみりしたりの2日間と3日目の始まりを描いて、それだけなのにすばらしくおもしろいの。

登場人物それぞれが下す決断とか挙動について、ものすごく自信があったり熟慮の末にやったりしているわけではなく、誰かの入れ知恵だったり噂話だったり、あるいは考えすぎの思いこみだったり、でも起こってしまうことは起こってしまうもので、そうやってアクションはオフィスからバーから車からエレベーターから、どこでだって起こるしその結果がどう転がるのかはちっとも予測がつかない。そんな「獨立時代」のカラーとか明暗とか。

例えばロメールが「喜劇と格言劇」シリーズで古くからある格言に集約できそうなじたばたを一本の映画(コメディ)を通して(なんとなく)語ろうとした騒動を、あるいは最近だとホン・サンスがあれこれむき出しの「起こっちゃったこと」を並べて示すその先にあるよくわからない「あなた」のこととかを、エドワード・ヤンはコント集のような短い会話の連なりのなかに凝縮して見せているかのよう – 登場人物ひとりひとりの困惑したり混乱したり立ち尽くしてあーあ、になるその顔やどつきあうそのシルエットだけで十分に何かが語られていて、そこには見る側の思い入れとかみんなが納得できるオチだのオトシドコロだのはまったく必要ないの。

見ていてとにかく楽しくて、これってなんなのかしら、って。文化系サークルの延長みたいに躓いては悩んでばかりの連中と金持ち系サークルにいある鼻もちならない連中の衝突とか囲い込み合戦のようで、実は全く人と人との繋がりとか一緒になることなんて求めていないかのような潔さ – こちらのキャラクターへの思い入れなどを一切弾き飛ばす - があって、これって最近のなんでも「ステークホルダー」みたいに繋いで結んで可視化してみよう(けっ)みたいなのとは真逆の、やっぱし「獨立時代」としか言いようがないというか。『恐怖分子』(1986) - “The Terrorizers”にあった後ろ頭の分子たちが巻き起こす恐怖をそのままコメディの方に倒しただけというか、のとてつもないスリルときたら。

エドワード・ヤンの他のも全部、一気に見せてほしい。見たい。


RIP Mimi Parker..  大好きだったよう。ありがとうございました。
 

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