10月30日、日曜日の晩、東京国際映画祭をやっているシネシャンテで見ました。
副題?に “Tourment sur les îles” - 「島の苦しみ」とあるAlbert Serraの新作。 165分。
Albert Serraについては、昔に初期作品いくつかを日仏で見て好きになり、”The Death of Louis XIV” (2016)でおおーっとなり、2018年にベルリンまでIngrid CavenやHelmut Bergerが出演した劇作品 - “Liberté”を見に行って、2019年にマドリッドのMuseo Nacional Centro de Arte Reina Sofíaまでインスタレーション作品 - ”Personalien”を見に行って、なのに映画版の”Liberté” (2019)はストリーミングじゃなくて映画館の闇のなかで見たいなー、って言っているうちに終わってしまったので見ていなくて、それみろバカ、と言っているうちに新作が。
舞台はフランス領ポリネシアの一部であるタヒチで、夜中、小さな船に乗りこんだ海兵隊?の兵隊たち数名が島にあがって、Paradiseなんとか、といういかにもな名前の南国酒場に入って酒を飲んだりダンスを眺めたりする。みんな騒いで発散するような雰囲気はなく、湿気と夜風に浸ってじっとりしている獣のような怪しさが漂う。
M de Roller (Benoît Magimel)はずっとひとりでこの地に駐在しているフランスの高等弁務官で、いつも白いスーツを着てバーテンや民族舞踊をするチームとも馴染みでバーの隅っこにいて、特に振り付けをやっているShannah (Pahoa Mahagafanau)とは仲もよくて、彼らの話を気さくに聞いたり声をかけたりしながらそこにいる。ある日住民たちの話を聞く会で、フランスが秘密裏に核実験を再開しようとしているらしい、という話を聞いたのでデモをしようと思う、という声があがり、その場はいきなりそんなことをしない方がよいと収めるのだが、ほんとうだろうか? って。彼らにその情報を流したのはどこの誰なのか?
なんとなく気になったMはひとりで(たまにShannahを伴って)島のあちこちを見にいったり隣の島の有力者に会いにいったり、単独で情報収集を始める。かといって物語はここからスパイ活劇のようになるわけではなく、島のいろんな風物とかサーフィンの名所(すごい波)とか夜中のどしゃ降りとか、明らかに潜水艦ぽい影が認められるとか、夕方になるとそこに向かってボートで漕ぎ出していく女性たちがいるとか、そういうのを前にしても動かず/動けずに立ち尽くしてばかりのMの姿を見せていく(自分になにができるというのか?) - のと、実際にそれらの光景は異様に不敵にでっかく広がっている(すごいので大画面で見るべき)。
Serraが最近の数作でずっと描いてきた(気がする)ねっとりとした、明らかに向こう側でなにか(おおよその見当はつく)がいやらしく蠢いている(なにをしているのかまではなんとなく)不穏な闇とか夜の描写はここにもあって、そこに謎の権力(者とその向こうの組織?)が関わっていそうなところも同じで、今回はそれが「楽園」と呼ばれる一見開放的な島(でも植民地)で繰り広げられている、というー。
あまり喋らずにサングラスをして遠くを見つめてばかりのBenoît Magimelの姿がよくて、突然闇夜に消されたり海に突き落とされたりしてもおかしくないのだが、それでもそこに居座ろうとする白人男の自業自得の孤独 - Chantal Akermanの“La Folie Almayer“ -『オルメイヤーの阿房宮』(2011)の主人公みたいになる手前の擦り切れっぷりがなんともいえない。
そして最後の方で(最初からいたけど)正体を現す軍の提督(Marc Susini)が部下に対して静かに、洗脳するかのように言い聞かせる統治の原理原則みたいのがしみじみリアルで恐ろしい – それを黙って聞いている兵士たちの無表情も含めて。これだけのパラダイスが広がっていようが夜空がどんなに美しかろうが - 植民地であることなどもたぶん関係なく - これが核のある世界の現実なのだと。
というような悪の論理とか陰謀論めいた世のぐだぐだに拳をあげて何かを訴えたりするわけではなく、こいつらもそれを見ているこっち側ももうみんな死骸なんだからあの大波とか放射能とかゴジラにでものまれて流されてしんじゃえ、くらいのことを静かに語っている気がした夜の雨の、絵巻物の見事さ。
ひょっとしたらMもShannahも、とうに亡くなって向こう側にいる人たちなのではないか、くらいのことを思った。それくらいに見事に撮られた「楽園」のありよう。
ここまでで今回の映画祭の感想はおわり。 もう何回も書いているけど(何回でも書くけど)、暗闇で映画を見ている時間以外の不快さったらない。あんなの業界関係者向けの見本市に呼び名を変えて「映画祭」の看板下ろしちゃえばいいんだ。
11.11.2022
[film] Pacification (2022)
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