10月29日、土曜日の晩、東京国際映画祭をやっているよみうりホールで見ました。
国立映画アーカイブで『太陽を盗んだ男』(1979)を見たあとに(上映後のトークはとばして)。
Noah Baumbachの新作で、原作はDon DeLilloの1985年の同名小説(未読)。Noah Baumbachはこれまでほぼオリジナルの作品(or Greta Gerwigとの共作)を撮ってきたので、原作ありは珍しい。
冒頭、大学教授であるらしいSiskind (Don Cheadle)がアメリカ映画で描かれるカークラッシュがどんどん軽快な快楽をもたらすものに変わっていった、その歴史について解説する。
Jack Gladney (Adam Driver)は彼の同僚の大学教授で、アメリカのヒトラー研究の第一人者(なのにドイツ語会話ができないってあるの?)らしく、人気はあるようだが体はやや不健康にたるんでむくんで、不穏な夢とか幻覚のようなものにうなされたりもしている。
妻のBabette (Greta Gerwig)とは互いに何度目かの結婚で、間には過去のパートナーとの間の子供たち - Denise (Raffey Cassidy)、Heinrich (Sam Nivola)、Steffie (May Nivola) - もいて賑やかで、ものすごくハッピーなかんじでもないが、そんなに不幸でもない。そこらにいくらでもいそうなアメリカ中西部の白人中産階級のファミリー。(監督の前作 - ”Marriage Story” (2019)の家族の人たちと比べてみよう)
でも最近Babette はなんとなくぼーっとして物忘れが.. とか言っていて、Deniseによるとこそこそなんかの錠剤をのんでいた - ”Dylar”というその錠剤はググっても出てこないしなんか怪しい、と。
そして運転手がウイスキーを飲みながらよれよれ走っていた有害化学物質満載のトラックがながーい貨物列車と衝突して大爆発事故を巻き起こし、見るからに有毒そうな黒煙が立ち上り、それは真っ黒い雲となって空を覆ってGladney家の暮らす一帯にも緊急避難命令が出て、一家は車に荷物を積んで指示されるままに走り出す。
放出されてしまった化学物質がどういうもので、どれくらい有害でよくなくて、どこまでいつまで拡がっていくのか、どうなったら収束するのか、責任者は誰なのか、全く情報がなくて、避難所では錯綜する情報を巡って憶測も飛びかうのだが、Jackは車にガソリン給油するときに浴びた雨がだいじょうぶなやつだったのか - 浴びたらあと2年半とか聞いた - が引っかかっている。
こんなふうに「死」がはっきり目の前に現れるのではなく、漠然とたまに気になるシコリみたいにちらちら鼓膜を透過していくのがWhite Noiseで、その反対側には子供達が夢中になる航空ショーでのクラッシュとか、サーフィンなんてやりそうにない体格なのにサーフしていきなり亡くなってしまったJackの同僚とか、Jackの専門のヒトラー、Siskindの専門のエルヴィスの死に向かう衝動とか、よりくっきりしたのがある。
Toxicな黒雲は微生物を撒いたらなんとかなったとか、Babetteのドラッグもそれがなんなのか明らかにならないけどなんか生きてるしとか、なにはともあれスーパーマーケットの精肉売場がオープンしたからいいじゃん、みたいになる。それでいいのか…
ベルイマン的な死や闇、邪悪さへの畏れを散らつかせつつも、どうしても向こう側には行けない - こちら側がブレーキをかけているのか向こう側が届かないのか - そこに挟まってくる、囲いこんでくるWhite Noise、とは。事故が起こったから/家族が仕事がどうなったから/歳をとったから/こんなことになっちゃってどうする、という形で描かれてきたNoah Baumbachのコメディが初めて登場人物たちを外部環境、のような不可解なものに向かわせている、というか。 よくわからない陰謀に右往左往しながらも立ち向かうWes Andersonをソフトにしたような。
Jack役ってはたしてAdam Driverでよかったのか? “While We're Young” (2014)のBen Stillerとかの方がうまくはまったのではないかしら? とか。
ラスト、モスクのようなスーパーマーケットに全員集合して、これまでずっとWhite Noise的ななにかを業のように背負ってきたLCD Soundsystem - 久々の新曲。どまんなか! - の主題歌に乗って、ゆるーく踊るの(ちょっと緩すぎ)。ここだけSpike Jonzeあたりに演出させてもよかったのに。
これって実は次の”Barbie” - 監督はGreta Gerwigだけど - の布石なのではないか、と。
この国のノイズのほとんどは”White”ではなくて、ずっとToxic Noiseで、今朝のアラートとか、ほんとに邪悪で愚かなのばっかしなの。しみじみやだ。
11.03.2022
[film] White Noise (2022)
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