7.25.2022

[film] L’Enfant sauvage (1970)

7月12日、火曜日の晩、角川シネマ有楽町のトリュフォー特集で見ました。これがこの特集の最後の1本となってしまうなんて。あーあー。

邦題は『野生の少年』。英語題はUSだと“The Wild Child”、UKだと”The Wild Boy”。

モノクロの美しい画面はこれがトリュフォー作品での最初の撮影となるNéstor Almendrosによるもの。有名な蝋燭の火の撮影はキューブリックの”Barry Lyndon” (1975)より早く実現されてて、キューブリックはこの撮影のためにレンズを開発したんだからってやたら自慢気だったのだが、これはどうやったのだろうか?

これは見たことがなかった。むかしから、人でも動物でも教育したり適応させたりする/しようとするプログラムとか物語がうまくいこうがいくまいがなんか苦手で、それを実行する側/される側の文化とか背負っているものを明らかにしないまま or 「自然状態」の意味や価値をきちんと問いかけないまま素朴に相手を成型しようとするのって暴力に近いことではないか、っていう不信があって、勿論その先にはこれを通してこういうものが見えるようになった/作ることができるようになった、という成長の、進化の歓びがあるのだろうがなんか嫌だったの。自分がされたくないだけなのだろうけど。

フランスのDr. Jean Marc Gaspard Itardによる1798年にアヴェロンの森で発見された野生児に関する2つのレポート - 1801年のと1806年の - を元にしていて、監督のFrançois TruffautがDr. Itardを演じている。

最初にジャン=ピエール・レオへの献辞があって、本作はある意味孤児・放蕩児トリュフォーの自伝的作品でもあって、彼にとっての教師はアンドレ・バザンであったと。自分の分身のようだった野良のジャン=ピエール・レオを撮って、今度は自分がその教師のような役を演じる - よくここまで来れたものだ、って。

冒頭、1798年にアヴェロンの森で裸状態のまま畑を荒らしたりしていた11-12歳の男子(Jean-Pierre Cargol)が捕獲されて、喋れないし耳も聞こえなさそうだし精神発達遅滞と診断されて手がつけられないので見世物小屋にいた彼を世話して観察する許可を国から貰ったDr. Itard (François Truffaut)と家政婦のMadame Guérin(Françoise Seigner)が彼を家に引きとってきれいにして服を着せて髪を切ってちゃんと二本足で立たせて、動物をしつけるように辛抱強く教えたりしてなんとか指示を聞いて応えたりそこそこ意思の疎通ができるようになっていく(ほんとか?)まで、を淡々と並べていく。

「淡々と」っていうのは本当にそれがヒトとヒトのふつーのコミュニケーションのように互いの思うところ指し示すところを正しく理解した上で行動しているのかを明らかにしないで、その達成度合いとかもはっきりしないまま、単にDr. Itardが手にしたペンで記録するまま - 彼はとうとう理解した! とかなんとか - 野生の子の勝手で野放図な動きや落ち着きない挙動をスラップスティックのどたばたとして切り取って、アイリス=インしたりアウトしたり、ぽつんと置き去りにしているような。

野生の子とDr. Itardの通じているようで(たぶんに)通じていないし、最後まで分かりあえているとも思えないコミュニケーションのありよう、って場が荒れるとMadame Guérinが奥から現れてなんとかしてくれたり、だんだんふつうの親子や家族のようになっていく、その辺のことって別にこのケースに特有のなにかでもなんでもない、学びでも恋愛でも不器用でへたくそでまぬけなやつって、だいたいこんなふうな思いこみとずっこけの刺しあい騙し合いだったりするのではないか、って。それをそのまま切り取って晒している。

そう思ってみると、家を飛びだして傷だらけになって戻ってきてハグして、の一連の流れがとっても素敵な日々のやりとりのようにも見えてくる。なにもかも初めて見たり聞いたり走ったりの - 清水宏の子供映画になる手前のような瑞々しさとか。 そしてこの場所からAntoine Doinelの支離滅裂なじたばたをもう一回見てみよう。それは「社会化」とか「文明化」なんてのからは程遠い生の、まっさらなところからサバイバルしようとする意志そのものだったり。

音楽は"Kramer vs. Kramer" (1979)でも使われていたAntonio VivaldiのMandolin Concertoが - もちろんこっちが先だけど(フレンチトーストを作るときはこれが頭の奥で鳴る)。あれも父親が子供に振り回されつつ気づいてなかった親性とか社会に目覚めていく話だったねえ。

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