7.07.2022

[film] Elvis (2022)

7月2日、土曜日の午前、109シネマズ二子玉川のIMAXで見ました。ここのIMAXで見れるのってこの枠だけだった。

Baz LuhrmannによるElvis Presleyの評伝映画。アメリカの成り上がり野郎をぎらぎらぎんぎん仕様で花火のように描いた”The Great Gatsby” (2013)に続いて、ここでもアメリカ近代どまんなかを突きぬけたアイコンを描こうとする。主演のAustin Butlerが細めの、最近のアイドルみたいであんま似てないように見えたとこも含めてだいじょうぶか? はあったのだが、だいじょうぶだった。見事な打ち上げ花火だと思った。

オーナメントに囲まれた部屋で倒れて病院に運ばれた老いてぶよぶよの妖怪のようになっているTom Parker大佐 (Tom Hanks) が語り部となり、俺がElvis (Austin Butler)を見つけて育てたのだ俺が俺が俺が.. って。

最初は縁日の見世物小屋をやっていた彼がSunから出たばかりのシングルが当たっているという若者のステージを眺める - Elvisの見たこともない奇怪な腰の動きと、それを見て電撃に打たれて痺れてトランス状態になってしまう女性たちを見てよくわかんないけどこいつはすごいかも、って動きだす。

彼はElvisの音楽や個性、そこからくる将来性とか市場価値などをきちんと見こんで把握した上で決断した、というよりあくまでも見世物小屋の興行主としてその奇形・異形性を嗅ぎ分けて金をつかって撒いて焚きつけようとする。こないだの“Nightmare Alley” (2021)と同じく、多少キモくても売れりゃ、当たりゃなんでもよいのだ、から始めて、でも囲いこんだ後で思ってもみなかった反抗とか反撃にあって散々な目にあってなんで? になっていくモンスターの怪異譚のような。

明らかにElvisを殺したヴィランはTom Parkerなのだが、彼はそんなことを認めず、それって“Moulin Rouge!” (2001)でEwan McGregorがNicole Kidmanに(彼も彼女の破滅に加担したくせに)“Love”のひとことを持ちだしてめそめそするくだりにも似ているのだが、その辺も含めてべったべたの浪花節 – この一曲にすべてを賭けて死んでもいい – みたいなエモが充満している(よい意味で)。

Elvisの生涯をきっちり追う、というより、Tom Parkerが見出した時点での彼の家族 – 母への強い愛と情けなくどうでもよい父 – の紹介から入って、近所にあったブルーズやゴスペル等、黒人音楽への憧憬と傾倒 - Mahalia JacksonとかLittle Richardとか - が、彼を白人のやるカントリーから足抜けさせて、最初は色物扱いだったのがマーケットとしては全く新しい – 誰もが思っていなかったようないかがわしい出し物/化け物へと変貌していく様が痛快に描かれている。それは猛り狂う猛獣と観客を制御できなくなったサーカス小屋のようで、放送局や政府が圧をかけたくらいではどうすることもできず、ようやく国の徴兵によりブレーキがかかり、戻ってからは映画出演でアイドルのように回されて遊ばされるのだが、Martin Luther King Jr.やRobert F. Kennedyの暗殺でめらめらと火を点けられてしまったElvisは、サンタさんが朗らかにやってくるはずだった家庭向けのTV番組を怒涛の”Elvis: '68 Comeback Special”に変えてしまう。これと、これに続くVegas InternationalホテルでのショーもTom Parkerの思惑をあっさり乗り越える物語となっていてああその場にいたらどんなにか、なのだが本人は既にぼろぼろだったり。

最後は悲惨で悲劇で、海外ツアーに出たいのに米国籍がなくて国外にでれないTom Parkerがブロックしていたので彼との契約を切ったら雪崩のように借金が襲いかかってきたり、やられっぱなしでかわいそうったらなくて。

異形のモンスターを捕まえる話から入って、それがはっきりと女性たちの心を掴んで”The King”となってでっかい社会現象にまで広がって、という典型的なロックスター流れ星のお話しで、それは当然のようにアメリカのポップカルチャーど真ん中をぶち抜いて輝いていて、Baz Luhrmannのスタイル - 愛は輝きと歓びと同時に破滅を – とてつもない破滅をもたらすのになんて甘美な - がそこに見事にはまっていた。絶唱のような”Unchained Melody”はべったべたに泣けるし、エンドロールでじゃらじゃら流れていく宝石もまた。

どうせやってくれないだろうけど、”The Comeback Special”とか彼のツアーフィルムとか纏めて上映してくれないだろうか。あと、Elvisの車に乗って彼の音楽の足跡をロードムービー風に追っていくドキュメンタリーの“The King” (2017)なども。

あと、バックバンドのGlen D. Hardin、James Burton、Jerry Scheffあたりはちょっとだけでも名前が呼ばれていてよかった。

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