7月3日、日曜日の昼、国立映画アーカイブの東宝特集のなかの石田民三小特集で見ました。
原作・脚本は『花ちりぬ』 (1938)と同じく森本薫、演出補助と音楽(選曲?)は市川崑。 英語題は”Old Sweet Song” - “Sweet”ではないが。 公開タイミングも設定年も逆だけど『花ちりぬ』(1938) の花井蘭子のプリクェルのようでもある。
蒸気船がぼーぼー進んでいってアメリカ民謡みたいに聞こえる「浜辺の歌」(歌なし)がかかるので、サイレントみたい - 「むかしの映画」のかんじに引きずりこまれる。
『花ちりぬ』が最初から最後まで建物の外に出なかったのに対して、こちらは最初から大阪の道とか路地とか川とか川縁の道とか橋とかが舞台で、ガス燈をつける人とか風車(かざぐるま)を売る女の子とかもいて、まるで写真のように切り取られた街の生きているかんじがまたすばらしくよいの。
明治の初めの頃、大阪船場に船問屋があって、主人は進藤英太郎(若い!)でそこにはもういない妾に生ませた娘、お澪(花井蘭子)がいて、彼女はいちにち三味線ばかり弾いてて、近所の油問屋の若旦那珊次(藤尾純)との縁談もあるようなのだが、適当につっぱってつーんとしている。
そんな家の様子を少し離れたところで隠れるようにずっと見ている女性 - おそよ(伊藤智子)がいて、彼女の家にいくと貧乏士族の鉱平 (高堂黒天) - ごろごろうだうだなにもしてなくて『人情紙風船』だったら即串刺し - と娘のお篠(山根寿子)がいて、主人がずっとそんなで西郷どんが旗をあげたら駆けつけるとかネトウヨみたいなことばっかり言ってるので、妻と娘は内職するしかなく疲弊困憊してて、お篠はもう体を売るしかないかって決意する。
でもやっぱり怖くなって走って逃げて、車夫のような男も追いかけてくるのだが、そこでぶつかったのがお澪で、その場で倒れてしまったお篠を自分の家に寝かせて医者も呼んであげて、回復してからも戻る宛がないなら、とそのまま家においてしーちゃん、て呼んで仲良くなる。
でもやがてお篠と自分の関係を知ることになったお澪は彼女を珊次のところに預けてしまい、そうしているうち西南戦争をあてこんで株をやっていた船問屋が傾いてお澪が芸妓にでるしかなくなり、西郷が兵をあげたことを聞いた鉱平は恥も外聞もないのだとか言いながら(恥を知れ)走っていってしまう(そのまま消えてなくなれ)。
最後、芸妓の仕度を綺麗に整えたお澪がこれまでと同じように家の外で彼女を見ていたおそよ - 実の母 - と一瞬だけど初めてはっきり顔と目をあわせて、お澪は軽く会釈をして人力車に乗りこみ、少し放心したような決意したような表情 - そこに車が揺れて陰が射したり明るくなったりの明滅が入るのでほんとうのところは見えなくてわからなくて - 溜息しかない。
『花ちりぬ』では長州の、今作では薩摩の浪人による側から見れば大迷惑でしかない政変に翻弄されて行き場を失う女性 - 芸妓の、芸妓にならざるを得なかった女性の儚さと絶望と悲劇と、こういうの、いまもずるずる続いてあるよね。
とにかく、少なくとも『花ちりぬ』とこれだけはちゃんとデジタルリマスターして世界に放って。ほんとすごいんだから。
花つみ日記 (1939)
7月9日、土曜日の夕方、『その場所に女ありて』から一本あけて見ました。この日3本目の女性映画。
原作は雑誌『少女の友』に連載された吉屋信子の『天国と舞妓』、脚本は鈴木紀子。原作の方は結構悲惨なお話らしい。
東京から大阪の女学校に越してきた転校生みつる(清水美佐子)と宗右衛門町のお茶屋の娘・栄子(高峰秀子)は仲良くなるのだが、みんなの憧れの音楽の梶山先生(葦原邦子)をめぐって仲違いして、仲直りする機会をなくしたまま栄子は舞妓になって、でもすれ違っても - ロープウェイと山歩きですれ違うとこすごい! - 挨拶もできないまま、そうしているうちに栄子は病に倒れて、でもみつるの兄に召集令状が来たことを知ると、ひとりふらふらしながら街頭に立って千人針を募ったりして..
ふたりの女学生の友情物語なので、悲しいものになるとは思えなかったのにそれでも胸が結構痛くなった。
いろんな歌が繋ぎました、みたいに簡単に締めて纏めたりもしていなくて、いろいろあって難しいのを画面に入ってくるいろんな幾何学模様の構図のなかに落としこんでいる。もう少し歳が上になるとGirlhood、って呼ばれる。
シネマヴェーラのジョン・フォード特集が始まって、↑のもそうだけど、今から90年100年前の映画のいまに訴える力ってなんなのか、って改めて思う。こういうの見ているだけで十分なんじゃないか、とか。
その反対側で、今後のMCUのIT企業のストラテジーみたいなリリースチャートを見ると、自分はあそこまで生き延びられるとは思えないな、って。そろそろどこかで線ひいた方がいいのか。
7.24.2022
[film] むかしの歌 (1939)
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