2.24.2021

[film] 重慶森林 (1994)

2月13日、土曜日の晩、BFI Playerで見ました。
4KリストアされたWong Kar-Waiを見ていくシリーズ。『花様年華』の次にくるのはやはりこれではないか、と。 英語題は“Chungking Express”、 邦題は『恋する惑星』。

香港の九龍、雑居ビルの重慶大厦を舞台に描かれる2つの恋にならない恋のエピソード。

手痛い失恋(どんなのだかはわからない)をして期限切れ間近のパイナップルの缶詰を集めて食いまくったり留守電のメッセージを置いたり聞いたり雨の中を走り回ったり青春している警官223(金城武)がいて、そこらのおっさん達を組織してドラッグの密輸を淡々と進めていたブロンド鬘の女(Brigitte Lin)がいて、空港のカウンター手前で裏切られた彼女は逃走(&どんぱち)の途中で警官223とぶつかって、ホテルの部屋で一緒に過ごすことになる。でも彼女はずっとがーがー寝ていて朝になったら出ていってそれきりなの。

一緒に住んでいたスチュワーデスの彼女(Valerie Chow)にフラれた警官663 (Tony Chiu-Wai Leung)が毎晩通っているファストフード屋(ケバブもバーガーも)のカウンターにいるFaye (Faye Wong)と出会って、Fayeは663のことをだんだん意識するようになって、スチュワーデスが置いていった彼の部屋の鍵を手に入れたFayeは、663が勤務中の昼間に彼の部屋を訪れて勝手に掃除したりするようになって..

最初に恋に破れた警官たちがいて、ひとりは犯罪を犯して逃走中の女に思い込みで恋をして、ひとりはやっぱし犯罪だと思う住居侵入を繰り返している女から思い込みで恋をされて、このふたつの恋は決してハッピーエンディングには向かわない、キスにもいかないし、名前すらもわかっていないし、彼女たちの「犯罪」を摘発することすらできない – 役立たず! で、やがて女性たちはみんな飛行機でどこかに飛んでいってしまうだろう。 それが森林の恋の掟なのか。

何度もかかるThe Mamas and the Papasの“California Dreamin'”やFaye Wongの歌うThe Cranberriesのカバーで繰り返し歌われる”Dream”は決して伝播したり共有されたりすることはないし、バーや屋台のカウンターを介してすれ違いを繰り返してばかりなのだが、時計のクローズアップや、缶詰の賞味期限や、0.01cmの距離だとか、流れてくる“What a Difference a Day Makes”とか、ストップモーションがそれを噴きあげて煽って、ごちゃごちゃしたただの雑居ビルを極彩色のパラダイス(ただし一方通行。それが見えるのであれば)に変えてしまう。

こうしてグランジの泥沼にもいいかげん飽きて、恋に恋をし始めていた若者たち(じゃないかも。中年だったかも)を大量にだまして崖底に落っことしたのではないか。そしてこの実らずにえんえんすれ違わせて炒ったり炙ったりしていくやり口は『花様年華』(2000)まで維持されていくことになる(or もっと先まで?)。べつに愛なんていらないんじゃないか、とか。

この辺の恋愛に対する接し方というか目線て、タランティーノの犯罪に対するそれととても近い気がして、それはつまり生殺しをテーマとした終わりのないゲームであり、そこへの囲い込みであるというー。 ある意味とっても過酷で残酷で「そういうもの」として見ておけばよいやつ。

この映画はたしか劇場では見ていなくて、その頃はまだNYに居て、日本で話題になっているらしい、と確か日系のビデオレンタル屋でVHSを借りたのだった(昔はそういう商売があって、日本の人気TV番組とかドラマを一揃い録画したのをお弁当を売るところで貸し出したりしていたの)。 で、これって渋谷系とかと関係あるの? とか思ったことを思い出す(わたしは渋谷系も知らない。NYに渡ってから渋谷のHMVが.. とか聞いてふーん、て)。 渋谷系とはたぶん関係ないのだろうけど、感触として同じようなカテゴリに入れていた。 インターナショナルにはオルタナの流れのなかに割とはまっていた気がする。 

今回見返してみて、やっぱり綺麗だし素敵だしFaye Wongすばらしいし、いいよね、って。
今の時代にリメイクしたらBrigitte Linは223と一緒に蜂の巣にされてしまうのだろうし、663はFaye Wongにケバブにされちゃうのだと思う。

The Cranberriesいいな、って思ったのもこの映画が最初だったかも。

そして、今の香港ではもちろんこんなの撮ることはできないよね…
 

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