2.15.2021

[film] Perdrix (2019)

2月7日、日曜日の晩、有料のYouTubeで見ました。

これも”Burning Ghost”同様、日仏で紹介されているのになんでこっちでは見れないのかしら、って探してみたらあった。 英語題は”The Bare Necessity”。 2019年のカンヌ批評家週間で上映されている。なかなかおもしろかった。

冒頭、オレンジ色の車でJuliette (Maud Wyler)が走っていて、車から降りた一瞬に素っ裸の女性が車に乗って走り去ってしまう。そこはヌーディストが暮らしている村だと後から知るのだが、彼女は怒り狂って地元の警察に向かう。 そこの署長がPierre Perdrix (Swann Arlaud) で、車に積んでいた彼女が子供の頃からずっと書いて来た日誌(ジャーナル)が全部盗られてしまったどうしてくれる、と嘆くのだがPierreは普段のお仕事としてふつうの官僚的な対応しかしてくれない。

Pierreの家で、母のThérèse (Fanny Ardant)は自宅ローカルラジオで”Love Is Real”っていうトーク番組をやって自分ちの部屋から視聴者の恋愛相談を受けたりしていて(冒頭、Julietteのカーラジオからも流れてくる)、でもそんなに人気があるわけでもないので、気を使った家族が交替で相談の電話をかけてあげたりしている。で、すべての人に愛は必要、っていう思想を実践すべく哀れな老人に愛を施してあげたり、彼女の亡夫はでっかい肖像画になってリビングに掛かっていて、たまに絵の向こうからこの世を眺めている。

Pierreの兄のJulien (Nicolaus Maury)はミミズの研究家で一人娘のMarion (Patience Munchenbach)からは鬱陶しいと思われ始めている。で、Pierreは子供の頃からずっとひとりでこの家に暮らしてきて、特に不満も困難もないように見える。

で、この家にすべてを失ってどこにも行けなくなったJulietteが現れて自分の身の上を語る。16歳で法的に親との縁を切って完全な独り身になり車で放浪(渡り)をしているのだと。そんなJulietteにとってこんな退屈な田舎にびっちり根を張って一家揃ってじーっと固まっているPerdrixの家なんてありえない! なのだが、することがない昼間にPierreといろんなこと - Pierreはドイツロマン派詩人のNovalisの”Hymns to the Night”を暗唱できるとか - を話しているうちに彼と彼女は親しくなっていく。

やがて村には戦勝記念日のイベントで戦車とか兵士のコスプレをした連中が集まってきて、通りでJulietteのジャーナルを持って歩いている男を見つけたふたりは追跡を始めたり、この他にも山の穴に落ちて動けなくなったJulienとMarionとか(だいじょうぶだこのミミズは食える)、ひとり家を出ることを決意するThérèseとか。

ずっと続いていくものなんてないし、家族なんていつかは失われて順番にお墓に入っていってしまうものなのに、毎日なにをやっているんだろう? っていう問いの反対側(じゃないけど)で日々をずっと記録してきたJulietteとか、戦争の1日をきっちり再現するイベントがあったり、でも肝心なのはそうやって残るもの(それを見るのは誰? なんのために?)ではなくて、突然理解不能ななにか/だれかとして目の前に現れてくるあなたなのだ、って。

突然の闖入者が平和にやってきた村や家族をかき乱す、というのは割とあるお話しだと思うのだが、ここでの闖入者は、冒頭で自身の過去を失った上に自分とは全く異なるやり方で過去や地面を見つめている人たちと出会って混乱し、自分自身の生を建て直すことを強いられることになっている。そんな局面で愛はどこでどんなふうに作用するものなのか。 喪失 → 再生なんて単純なものではなくてどっちの側にも爆発するようにして目と耳を塞いで混乱させる。 そういう倫理を欠いた爆発性可燃物としての恋を割と落ち着いたトーンで描いている、というか。

こういうのってAki Kaurismäkiとかが扱ってきたテーマかも、と思うし、前日の”Burning Ghost”の仕業のような気もするのだが、ラブストーリーとしてはよくできていて - もうちょっと暴れたり滅茶苦茶してもよい気も少しだけ - 悪くないかも。暖簾に腕押しみたいに透明なSwann Arlaudとなんでもかんでも威勢よく噛みついてくるMaud Wylerの相性は後半に向かって輝きを増していく。そしてじたばた青春しているふたりの上空で揺るぎなく愛と墓を見つめてひとり旅に発つFanny Ardantの圧倒的な正しさ(ああいう人になりたい)。

あと、村にはずれにいるヌーディストのコミュニティのなんともいえない存在感 - あのラストの光景のおもしろいこと。


今日は午後から雨だったし、14時から20時まで、アムステルダムのITA - Internationaal Theater Amsterdamのストリーミングでシェイクスピアの『ローマ悲劇』を見ていた。つまんなかったら抜けたり寝たりすればいいか、くらいで見始めたら止まらなくなった。 原作なんて学生の頃読んでほぼ覚えていなかったけど、まったく関係なかったし。演劇おそるべしだねえ。

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