2.05.2021

[film] 84 Charing Cross Road (1987)

1月30日、土曜日の昼、YouTubeで見ました。英国に来たのにこんな大事なのを未だ見ていなかった、って気付いて。レンタルで£3.49。

Helene Hanffの原作 - ”84, Charing Cross Road” (1970)をJames Roose-Evansが1981年に劇作にした脚本をベースに映画化したもの。他のアダプテーションだと、BBCが1975年に”Play for Today”で放映したり、同じくBBCでラジオドラマ化もされている - 2007年版はGillian Anderson & Denis Lawsonだって。

日本では劇場公開はされていなくて、ビデオスルーでの邦題は『チャーリング・クロス街84番地』。江藤淳訳の本の方は『チャリング・クロス街84番地』。どうでもよいかもだけど「チャーリング」ではない気がする。

わたしはずっと江藤淳訳の中公文庫の原作を愛してきたので、こっちにも当然持ってきて古本屋にも通うようになった。なので映画の中での会話や手紙の文章が自分の頭の中で江藤淳訳の日本語にほぼ自動で変換されていくのがおもしろかった。

冒頭、Helene Hanff (Anne Bancroft)が71年、ついに憧れのロンドンに来て観光地を抜けて、もう閉じていて一冊の本も置いていないがらんとした84 Charing Cross Roadのスペースに入るところから手紙のやりとりを中心に置いた回想が始まる。

映画はHeleneが暮らすNYで撮影されたパートと、彼女からの手紙を受け取る古本屋Marks & Co.のFrank Doel (Anthony Hopkins)、だんだんHeleneからの手紙や贈り物に集まってくる店員たち、Frankの妻のNora (Judi Dench)たちが暮らすロンドンで撮影されたパートに分かれて切り替わっていく。エンドロールのクレジットを見るとスタッフも両サイドできれいに分かれていて、衣装(どちら側のもすばらしいの!)も含めた両都市の空気や湿気の違いがよくわかる。彼らの往復書簡は1949年に始まって1969年まで続いた。戦争には勝ったものの戦後の困窮が続く英国と戦争による物理的なダメージを受けずに経済では圧倒的に優位にあった米国のギャップは手紙のやりとりだけでも十分窺えるものだったが、映像になることでところどころ、互いにとって泣きたくなるような距離感もうまく表現されている。

NYのアパートにひとりで暮らし、TVドラマの劇作家として生きていくHeleneがFrankとの文通を通してどれだけ英文学に、それを通してみた英国に、それを届けてくれる英国人に(自分の足下との対比で)惹かれていったのか、そこは本に収められている手紙を追っていった方がよくわかる気もするのだが、彼女が英国に行くことをどれだけ望んでいたか、旅行用に貯めていたお金が歯の治療費($2500.. わかる。軽くそれくらいいくの。それも突然)でふっとんで諦めた時のがっかりや、Heleneの贈り物がどれだけFrankたちの日々の暮らしを明るく照らすものだったか、等は(脚色が多いかもだけど)映画の方が伝わってくるものもある。

あとはロンドンに行ったHeleneの友人のMaxineがMarks & Co.を訪ねるところ。ここは本でもMaxineからの手紙として出てくるのだが、ちょっと敷居が高そうで気難しそうな古本屋の様子 – そこに入っていくかんじ – は映画ではよくとらえられていると思った。これらの小さな古本屋の店内って、ここ100年くらい、そんなに変わっていないのではないかしらん? (江藤淳が文庫の解説で触れているGreen Parkから少し歩いたところにある古本屋って、いくつか見当がついている)

Anthony HopkinsとJudi Denchの夫婦の、奥の方に静かに座っていて、でもちゃんと見ています・わかっていますよ、みたいな英国人の佇まいとその凄み(のように見えるあれ)。あのかんじってどうやったら出すことができるんだろうか。

Heleneの頃は手紙でオーダーするしかなかった古本も、いまはオンラインで探すことができる、というか(ロックダウンなので)オンラインで探すことしかできなくて、クリックしてぱたぱた叩けば本が届くんだから便利なもんだけど、これってやっぱり本屋の棚を眺めて手に取って、のそれとは全く異なる手続きと経験で、こっちで古本屋に入ると、まず「何をお探しですか?」って聞かれて「ちょっと見るだけ」って棚を追っていく - 最初は緊張してるし慣れないしの状態が何度か通ううちに目が馴染んできて、どこに何があるか新しいのはあるかが掴めるようになっていくあのかんじ(初めての輸入盤屋に入った時のもそう)って検索エンジンだと得られるのかしら? わかんないけど。

江藤淳は解説で、Heleneが英国の古本屋に向かったのはアメリカにいい古本屋がなかったからではないか、と書いていて、昨年のドキュメンタリー”The Booksellers” (2019)を見ると、そんなでもないのでは、って思ったのだが、当時はそうだったのかもなー、とか。でもどこの古本屋がすごいかなんて、その人がどういう本を求めるのか、によるよね。

原作の最初の方で、HeleneがFrankに探して、って頼むArthur Quiller-Couchの“Oxford Book of English Verse” (1905)の初版本、いまオンラインで同じもの(たぶん)を買おうとするとざっと数百倍の値段(Heleneは$2で買ってる..) そういう値段でも買う人がいるってことで、古本のマーケットってよくわかんないけど、なんかすごいの(なにかを狙っているらしい)。

こっちにきて彼女の“Apple of my Eye” - サンリオ文庫から出ていた『ニューヨーク、ニューヨーク ニューヨークっ子のN.Y.案内 』 - の古本を買った(The Second Shelfで)。サイン本で、“For xxxxxx – who cried at the end , as Patsy and I did – Helene Hanff” って献辞が書いてある。なんか彼女らしいよね。


最近ようやく見れるようになったCNN - これまではトランプの顔を見たくなかったので外してた - で、昨日今日はオリンピックの例のくそじじいの発言の件が絶賛ヘビロテしまくりで、その直後に日本政府が作成している日本すごい美しいCMが流れるのがおかしい(おかしくない)。なんかの冗談か放送事故かと思うよ。べつにその内容についてどうこう言うつもりはないけど(センスはさいてー。醜悪)、国のお金の使い方として絶対におかしい、間違っている、って誰か言わないのか。言わないんだろうな、あんなじじいを放流しているくらいだから。 自分の国が海外からどう見えるのか、もっときちんと意識したり勉強したりした方がいいよ。あの国にがんばって、なんてちっとも思わないけど、あの国の一員、って見られるのが嫌なの。

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