12.08.2020

[film] Small Axe: Mangrove (2020)

11月30日、水曜日の晩、BBC iPlayerで見ました。

Steve McQueenによるTVシリーズ – “Small Axe”、BBC Oneでの放映は11月15日の日曜日の晩から始まって、1週間に1本のペースで、次の”Lovers Rock” → 3本めの“Red, White and Blue” → 4本目の“Alex Wheatle” ← これがこないだの日曜日 – まで来ている。最初の3本はNew York Film Festivalでプレミアされて、自分もLondon Film Festivalで”Lovers Rock”を見た。このままシアターで上映されてもちっともおかしくない圧倒的なクオリティの作品群なのだが、Steve McQueenが語っているように、これはなんとしてもTVで放映されなければならない内容である。イギリスに移民として渡ってきた黒人たちが60年代~80年代に経験した出来事、これが現在のイギリスのベースとなっている – ここからどこに向かうにせよ。 そしてこれはドキュメンタリーを通して学ぶというより、物語としてひとりひとりの記憶に刻まれる必要があったなにかなのだと思う。

“Mangrove”で描かれている事件については、最初のロックダウン明けの9月にBFIの特集 – “Redefining Rebellion”で37分のドキュメンタリー – “Mangrove Nine” (1973)を見ていて、概要は理解していたつもりだった。でもこうしてドラマになったものを見るとその熱は全く異なっている。それは捏造とかいう類のものではなくて、事件の当事者だった年長者の語ることを次に伝えていく - 社会を維持するために必要なことで、我々が広島や長崎や水俣について継いでいかなければいけないのと同じ使命なのだと思う。なかったことにしていいとか見たくないから見ないとか妙な圧が蠢いている今だからこそ、起こったことについて、彼らがあげた声の強さについて、リスペクトをもって受けとめること。同じ悲劇を繰り返さないために。

68年、Notting HillにFrank Crichlow (Shaun Parkes)が食堂 & フリースペースとしてThe Mangroveをオープンするところから始まって、それは地元のブラックコミュニティにとってはよいことだし、みんなでわいわい寛いでいると、警察が突然強制捜査 – という名の荒らし - でなだれこんできて客や従業員に乱暴をしたり脅したりする。でも捜査結果はいつもなにも出ないし問題ないし。急襲の他にも警察による周辺住民への嫌がらせや虐めは日常茶飯事になっていて、それらを間近で見ていたBlack Pantherの活動家Altheia Jones-LeCointe (Letitia Wright)らは、みんなでデモをしよう! って、デモで絶対にやってはいけないこととかを予習して戦略たてて、デモの日がやってくる。

のだが、実際のデモが始まるとやはり警察の干渉と当たりは想定を越えてすごくてひどくて、もう耐えられなくなって少し反撃したらそうらきたって決壊してなだれこんできて一網打尽にされる。こないだの”Lovers Rock”でも見られた至近距離をすり抜けるように動いていくカメラがすばらしい動きを見せて、鼓膜すれすれを耳障りに不機嫌に鳴り続けるMica Leviの音がものすごい。怖い。

こうして警察に対する傷害・共謀の容疑で逮捕された9人 – Mangrove Nineが法廷でどう戦ったのか、を描くのが後半。彼らが送られた裁判所は傷害等の刑事事件を主に扱うところで、人種差別をネタに闘うのは難しいし、裁判長は高齢の引退前のじじいで難物で、そういう事情を踏まえて弁護人のIan Macdonald (Jack Lowden)は攻め筋の戦略をたてて、いくつかは失敗したり退けられたりするものの、腰を据えて警察側の証言や証拠の矛盾や嘘を突いて、それが過度な偏見や差別意識によるものであることを暴いて、だんだんに距離を縮めていくところは手に汗をにぎる。

最後のDarcus Howe (Malachi Kirby)の(ほぼ)演説なんて力こぶ鳥肌もんで、こうしてこの判例は人種的憎悪に動機づけられた行動を司法的に認めた最初のケースとなった、と。

法廷ドラマとしては、やはりこないだの”The Trial of the Chicago 7” (2020)と比べてしまうのだが、オーケストレーションはあっちのが豪華で見事に見える。けど、こっちはキックとスネアの一撃であれこれすべてをぱーん、って一掃してしまう、そういう痛快さと爽快感があるの。

メガネで悶え苦しむJack Lowdenがよくて、メガネのBen Whishaw並みに劇物(ひとによっては)かも。

Letitia Wrightさんはちょっと残念なことになってしまったが、この映画の演技を見ると彼女は本当に真剣にこれらの歴史のことを考えている、ということがわかる。再起してほしい。

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