21日の日曜日の昼間、BFIで見ました。 LFFの1本で、昨年はここで”Ex Libris – The New York Public Library” (2017)の上映があって、Frederick Wiseman監督本人も来たのだが、今年、監督は来ていない模様。 全143分。なんだ短いじゃねえか、とがっかりしてしまうってなんか変。
タイトルのとおり、インディアナ州の小さな町、Monrovia(人口1500人程度)のあれこれを描いた、それだけ。 前の2作 - “In Jackson Heights” (2015)や ”Ex Libris – The New York Public Library” (2017) のように、明確な理念や目的意識を持った共同体の日々の悪戦苦闘を描くのではなく、ここにはそんなものなんもないんですけど、それがなにか、とアメリカの地方の大多数が持っているであろう、なんにもないがある、を撮ってみようと思ったのではないか、と推測する。(Wiseman本人によるとMidwestの小さな町をこれまであまり撮っていなかったので、知り合いに頼んでみたらいろいろ紹介してくれて … といういつものアプローチのもよう)
というわけで、農場を耕す、牛や豚を飼う、高校、通り沿いの床屋、美容室、タトゥー屋、ピザ屋、ガンショップ、でっかいスーパー、町を通り過ぎていくライダーたち。動物病院 – 会場の前に動物を虐めているかに見える映像があるので注意ください、という貼り紙があったのでどきどきしていたが、これだった – わんわんに麻酔して、尻尾の毛を丁寧に剃ってから、尻尾をちょん切るの。なんのためか不明だったけど。 延々続くタウンミーティング - 人口減を解消しないと町の未来はない、でもそのために投資するお金はないし、消防設備ですら整っていないのどうすんのよ? 、とか。フリーメーソンの表彰の儀式、ストリート・フェスティバルの準備に本番、結婚式にお葬式、最後に埋葬。
雨はほとんど降らない、季節の変動もそんなにない(ように見える)、主力となる産業もなさそうで、車での移動がほとんどで、教育もケアもそこそこで治安も悪くはなさそう、人種は白人のが多そうで、なんか全般に退屈そうだよね、なんだけど、これがおそらく今のアメリカのもっとも平均的な町の像 - 生活のありようで、例えば社会を変えるとか、言うのは簡単だけど、こういうところに住む人達 - 2016年の選挙ではここの76%の人達がTrumpに投票している - のなにをどうやったら変えていけばよいのだと思う?こんなところで”America First”とか言ってもさあ? とか。
もちろん、フィルムがそういう政治的な煽りや提起をするわけではないのだが、”Ex Libris – The New York Public Library”がTrumpのおかげで結果的に政治的なフィルムになってしまった(by Wiseman)のと同じように、この映画は政治的に見えざるを得ないなにかを映しだしてしまっていると思った。(今のにっぽんの郊外を撮ってもおそらく同じようになる -政治から遠いそぶりをすればするほど)
彼の映画は始まる前にいつも少しどきどきして、これからの3時間くらいの旅を乗り切ることができるのか、と思うのだが、今回もまったく心配はいらなかった。ほんとに、何をどう撮ったら、どう撮るからこんなふうに見えて、映しだされた世界に没入することになってしまうのか、不思議でしょうがない。 ラストの教会での葬儀のシーンで、牧師だか親族だかが亡くなったShirleyという方への弔辞を述べるところをそのまま- 20分くらい? - 流していて、それはShirleyを知らない我々にも彼女の人生が見えてくるようなすばらしいものだったのだが、彼のフィルムにもそういうところがあるのかも。
今回150時間分の映像を撮ったそうで、それは実際に暮らしている人達のすべてを捕えているわけでは当然ないのに、そのそれぞれの断片がひとつの地面の上でぜんぶ繋がっているかのように(いや、繋がっているんだけど)繋いで、一枚のでっかい土地の地図にしてしまう、そのやり口みたいのがあるんだろうな。
そして、こんなふうに彼の映画を見ることでそこに映し出された世界を知る、あるいは世界を「知る」ということはどういうことかがわかる、という点でWisemanの映画はまだまだいろんな世界に、より一層必要とされているよね、と改めて思った。
だからとにかく日本でも、日本でこそこういうのは公開されないと、なんだよ。
で、上映終了後、シアター飛びだして、かつてない勢いで橋を走り抜けて地下鉄に飛び乗って、Ciné Lumièreに駆けこんでAssayasの新作をみたの。
10.31.2018
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