10.26.2018

[film] Be Natural: The Untold Story of Alice Guy-Blaché (2018)

21日、LFF最終日の日曜日の昼間に近所のCine Lumièreで見ました。映画館がおうちの近くにあるとなんて便利なんだろ。

Alice Guy-Blachéについては、2012年にいまはもうないオーディトリウム渋谷っていうところで自主企画のような特集上映が組まれたことがあって、そこで知って以来ずっと頭のどこかにはいた。世界最初の女性映画作家であると。

上映前に監督(女性)とプロデューサー(? 男性)の挨拶があって、男性のほうはAliceの本を書いたことがあるそうなのだが、監督が今やっていることは歴史を書き換えるようなすごいことなのです、と。 うん、これはそうかも。

ナレーションはJodie Foster(プロデュースも。他のプロデューサーにはRobert Redford, Hugh Hefnerとか)。

フィルムのオープニングで、あなたはAlice Guy-Blachéを知っていますか? って若めの映画人達に聞いてみると殆どが知らないって。聞いてる人の幅がすごくて、Lake Bell,  Jon M. Chu,  Geena Davis,  Julie Delpy,  Peter Farrelly,  Elsie Fisher("Eighth Grade”の娘), Janeane Garofalo,  Catherine Hardwicke,  Mark Romanek,  Andy Samberg,  Evan Rachel Wood,  Agnès Varda(←彼女はもちろん知っているって。最重要だって)、などなどなど。  

Alice Guy-Blachéの生い立ちから追っていって、後にGaumontとなる会社にSecretaryとして入って、1895年、Lumière兄弟の内輪の(世界最初の)映画上映会に参加してこれおもしろい、でも上映するため用の素材だけを撮るのはつまんないからフィクションをやらせて、とGaumont に言って許可を貰い、”La Fée aux Choux” (The Fairy of the Cabbages)  (1896) を手始めにショートをいっぱい作って、1906年迄Gaumontの映画部門のトップとして、音との同期とか二重露光とか技術的な試みにも果敢に取り組んでいく。

その後結婚を機にアメリカに渡り(Gaumontで彼女の後を継いだのがLouis Feuilladeね)、NJのFort Leeに映画会社Solaxを立ち上げて更に冒険を繰り広げていく。(タイトルの”Be Natural”はその映画スタジオにでっかく掲げてあった標語なのだそう)。

この辺まではふつうの歴史のお話しなのだが、監督はAlice Guy-Blachéの娘や孫やその配偶者まで徹底的にリサーチをかけて全米各地(散らばり具合がすごい)に飛んでいって、手紙から写真からよくわからないフォーマットのフィルムまで掘りだして彼女の足跡を追っていく。 結果、Lumière兄弟が撮影したAlice Guy-Blachéの動く姿(一瞬だけど。顔認識の専門家のコメントで確定)とか、娘が母とその仕事について語っているインタビュー映像(with 猫)とか、Alice Guy-Blaché自身のインタビューテープとか、いろいろ表に出てきて、その追跡劇だけでもおもしろくてしょうがない。

その過程で浮かびあがってくるのは(Alice Guy-Blaché自身も文句を言っているのだが)、彼女のやってきたことが不当に無視され改竄されてきた、という映画の歴史(のありよう)で、ジョルジュ・サドゥールの映画史でも少し触れられているだけ(その後改訂)、アンリ・ラングロワですらよく知らないとか言ってて、だってそもそも、Gaumont社のおおもとの社史が書き換えられていたんだから。ひどいわ、って。 こんなふうに歴史は男の都合でてきとーに変えられちゃうんだよ、って。 映画ってほんとに、こんなはじめっからメンズの世界だったのね。

あと面白かったのは、彼女が撮ろうとしたスケッチのような映画の数々って、今、誰もがスマホで撮ったりやったり、YouTuberがやっているような映像の中味に近い (と、彼女の映像とどこかに投稿された今の動画を並べてみる) - 屋外の光を使うとか、男女の取り違えとか、暴走ずっこけとか、延々止まらないとか – ってとこ。あとエイゼンシュタインは回想録の中で明らかに彼女の映画を参照してて、探してみれば「十月」には彼女の影響と思われる箇所がある、とか。

そういったところも含めて彼女の名前はLumière兄弟、Georges Mélièsと並んで映画史の一番最初に記されるべきもので、それくらいの重要人物なんだよ(とAgnès Varda先生が最後に締める)。

監督のプロジェクト - 世界中の映画アーカイブに声を掛けてAliceの映画を発掘すること、家族親戚が保有しているであろう資料を集めていくこと - はまだ続いていて、この映画にしても上映の数日前に間違えを見つけて写真差し替えたとか言っていたし、朝4時に起きて出資者に発掘状況の報告をして夜11時まで走り回って、というのをここ数年続けていてまじくたくたなんだって。

映画はカンヌで上映されて、NYで上映されて、ここLondonで上映されて、でもまだ配給先が決まっていないので誰か買って、って叫んでいた。 買ってあげようよ。ほんとにおもしろいよ。

渋谷の上映会でAlice Guy-Blachéのことを教えてくれた学生さんたち – もう学生じゃないかもだけど - にも見て貰いたいな。

あと、Martin Scorseseが”Hugo” (2011)でやったようなことをAlice Guy-Blachéで誰かやらないだろうか。女性監督で。 ぜったいおもしろい痛快なのができるよ。

0 件のコメント:

コメントを投稿

注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。