2.14.2023

[film] Empire of Light (2022)

2月10日、金曜日の晩、米国のYouTubeで見ました。もう少しでこっちの映画館でも見れるのはわかっていたが、まずヘッドホンのでっかい音で籠って聴きたい/聴くべき、と思ったので。

Sam Mendesが監督、だけでなく初の単独脚本も手掛けていて、撮影(すばらしいー)はRoger Deakins、音楽はTrent Reznor & Atticus Rossで、冒頭、ピアノのシンプルなノートにぽつぽつと弦が絡まって膨らんでいくところに扉が開いてライトが点いて、無人だった映画館が開かれていくシーンに連なるところがたまらなくよくて、それだけでもうー。

1980年頃、英国のMargateの海岸沿いにある映画館(シネコンなんて下品なやつではない) – Empire Cinema(実際には1923年に建てられて2007年にCloseされたDreamland Margate Cinemaというとこ)があり、Duty ManagerのHilary (Olivia Colman)が朝に映画館を開けて、従業員がやってくる - 映写技師のNorman (Toby Jones)とか、よい面々が働いていて、支配人のDonald Ellis (Colin Firth)は、堅物できちんとしていそうだが、オフィスの裏の暗がりではHilaryと性的関係をもっている。

そこに新人のStephen (Micheal Ward)が来て、移民の母親と暮らしていて2 Tone Recordsのあれらに熱中している黒人の彼は、最初のうちは接客態度が酷かったのでHilaryに怒られて、Stephenは素直に謝って、休憩時間に館内の使われていなくて廃れてしまったエリア(4つあったシアターのうち、2つとラウンジは閉鎖されたまま荒れ放題)で怪我をしてうずくまっていたハトの世話をしたりしているうちに仲良くなっていく。

建築を学びたいという夢を持っていて人種差別に対する怒りを露にする若いStephenにHilaryは寄せられていくのだが、彼に惹かれれば惹かれるほど現在の自分との不相応 - 過去に病院に入っていて今も通っていること、Ellisとの関係、年齢のギャップ、等で苦しくなってきて、それが映画館の一大イベント - 市長などを招いた“Chariots of Fire” (1981)のリージョナル・プレミアの場で爆発する - 勝手に壇上にあがってW.H.オーデンの”Death’s Echo”を朗読して、Ellisの妻やみんなの前で彼との関係をなにもかもぶちまけて、そのうち自宅に籠っている彼女のところに施設の人がやってきて…

他方でStephenは、海岸沿いの道をいくNational Front(極右)の示威行動に巻き込まれて大怪我をして病院に運ばれ、病院に詰めて回復を祈るHilaryに看護婦をしている彼の母(Tanya Moodie)はわかるでしょ、もう会わないでやって.. って。

いろいろ傷ついて疲れきって、もう回復-復帰は難しいかも、と思われたHilaryはある晩、映画館が閉まった頃に現れて、Tobyに何か映画を見せて! と頼むと、彼がかけたのは..

過去の恋愛などで傷ついて動けなくなってしまった中年女性と人種差別などに直面してくすぶっている黒人の若者と、社会の片隅に追いやられている二人が恋をして、でもそこにはいろんな壁がー。でもこれって、話を追っていくとふたりがそういう壁を乗り越える話ではないし、Hilaryが映画によって救われる話でもないような気がする – どちらかというと彼女を救ってきたのは詩 – A. Tennyson, T.S. Eliot, W.H. Auden, Philip Larkin – のようだし、彼を支えているのはRude Boyのメンタリティだし.. そして彼女は彼に「あなたはここにいちゃだめ。町を出なさい」という。

TobyがStephenに映写室で映写の仕方を教えるシーンがあって、映画は一方の光源が向こうのスクリーンに像を結ぶ、一秒間に24フレーム動くけど、その間の暗闇は見えない、それだけのものなんだ、って。そんなそれだけのもの、と、実際の映画のなかで展開されるテーマとか物語がどうしてそんなふうに人を虜にしたり救ったりするのか、更には主人公のふたりにとってどんな意味を持ちえたのか、が示されないのはちょっと残念だったかも。言いたいことはわかるし、”Empire of Light”の域ってきっとどこかにあると思うし、貼ってある当時のポスターを眺めているだけでじーんとするのだが、どうも主人公たちの動きや伝わってくる痛みと像を結んでくれないような。

おそらく、Steve McQueenが“Small Axe” (2020)のシリーズ - “Lovers Rock”の回とか– でやりたかったことを映画を題材にやりたかったのではないか。いやわかんないけど。

音楽はHilaryが部屋でかけているJoni Mitchellの”You Turn Me on, I’m a Radio”とか、従業員が休憩で寛いでいるときにかかっているSiouxsie and the Bansheesの"Spellbound" (1981) - 「これだれ?」 の声に「MagazineのJohn McGeochが..」と言っているのが聞こえる(ここ、脚本に書いてあったのだとしたらえらいわ)(あの休憩室ではThe Fallとか流れたのかしらん?)。

あと、Hilaryが怪我したStephenをお見舞いするときに彼へのプレゼントとして持っていくレコードがThe Beatの”Wha'ppen?” (1981)なの ← えらい。他にThe Specialsの”Do Nothing”なんかも聞こえてくるよ。

それにしても、映画に出てくる映写技師の人ってみんなとても人間ができているよい人ばかり、っていう気がするな。

昔の古い映画館て、本当に素敵で扉をくぐってシートにうずくまるだけでなにかが満たされるかんじがあって、もう東京にはなくて、NYもダウンタウンにあったLandmark Sunshineを最後になくなった – BrooklynにはまだBAMのRose Cinemaがある。LondonはMayfairのCurzonとか(もう改装しちゃったかしら)。そういうのって、フィルムかDCPか、以上に大事なことだとおもうー。

この2日後に見たやつも、来月くる”The Fabelmans”も、最近はみんな映画が大好き/すばらしー、って隠そうともしていなくて、この映画も映画愛・映画館愛に溢れているようで、ここまで手放しで愛を語られると、映画、そんな好きじゃなかったかも、って言いたくなってしまうし、上に書いたようにこの映画は欠点だらけなのだが、でもこの映画はどうにもどうしても嫌いになれない..

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