2.13.2023

[film] Rien à foutre (2021)

2月6日、月曜日の晩、MyFrenchFilmFestivalで見ました。

先日発表されたここのコンペティション部門でグランプリを受賞したそう。
英語題は”Zero Fucks Given”、邦題は『そんなの気にしない』。
作・監督はJulie LecoustreとEmmanuel Marreの共同で、これが彼らの初長編作となる。

Cassandre (Adèle Exarchopoulos)はヨーロッパをベースとする架空の格安航空会社Wing - 青と黄色の派手な制服がRyanairに似ている – で契約社員として働く客室乗務員で、勤務中の彼女は真面目で、機内販売の売り上げ(ノルマあり)を少しでも上げるべくセールストークと愛嬌をふりまいて、搭乗開始までの短時間での機内掃除とかにも懸命で、でも勤務が終わってオフになると乗務員がベースとしているスペインの島のクラブで飲んで踊って、デートアプリ用の写真を撮って投げてその晩の相手と駆け引きしたり、むくんだ顔で遅刻することもあるけど、べつに切り替えてるんだからいいじゃん、て。

この辺の「うっせーんだよ知ったことか」(原題直訳)モードを演じるときのAdèle Exarchopoulosのふくれっ面と無表情と作り笑いの線上にある多重線の顔と流れ作業のどうでもいい感満載の態度ときたらものすごく巧くて絶妙で、それがこの仕事の働けど働けどーのかんじに見事にはまる。飛行機映画というジャンルのなかでパイロットでも乗客の側でもなく、客室乗務員同士のチームワークや友情にも踏みこまず、ハラスメントまみれ(あからさまなのも自動音声対応とかも)の労働としての過酷さとつまんなさにダイレクトに触れたのってこれまでそんなになかったのではないか。

年末で勤務の要請コールが入ったときも即受けて、実家には忙しすぎて帰れないから、と伝えて、やがて彼女の母親が事故で亡くなっていることがその理由のひとつであると。

そのうち会社との契約期間が切れて、このまま職場を去るかランクが上のパーサーになるべくマネージャーの研修を受けるか、会社からは選択を迫られ、このままでいいんですけど、と言っても受け入れられなくて、同僚とはやっぱし夢はエミレーツだよねえ、ずっとここにいてもなあーなどと話している。仕方なくそのままマネージャーの研修(笑顔とか事故対応とか)を受ける彼女の死ぬほどつまんなそうなかんじはとってもよくわかる。

で、そうやって少し偉くなっても責任(どうでもいい系)の面倒で重いのばかりが寄ってきて、変わらず傲慢な男性客のグチだの「ご意見」だのを聞かされ、機内で落ち込んで泣きだしたおばあさんを助けようと自分のカードで赤ワインを買ってあげたら重大な規程違反だって怒られてあーあ、ってなって、エミレーツは無理だったけどドバイのプライベートジェットの会社に移った友人の紹介でそこの面接を受けてみたりする。

終わりの方は、そうしてCassandreが会社を移る合間にベルギーの実家に戻ると、妹と父(Alexandre Perrier)がいて、父親は彼女の仕事のことでシジェクのようにねちっこく絡んでくるので、あーこれじゃ実家に帰りたくないのわかるわ、だったりするのだが、父は母の死因についても諦めず何度も困った再審請求をしていて、でも実際に事故の現場を訪れてみるとなんとも言えなくなってしまう。母の死は仕事のようにどうでもよいことではぜんぜんなくて、それは母との記憶を共有する父にも妹にとってもそうなのだった。

最後、Cassandreはドバイ – みんなマスクをしている – にいてショッピングモールの広場に突っ立ってライトショーを眺めている。ばかばかしいくらいにでっかくてすべてが嘘っぽくて – わかる – そういうのを前に改めて襲いかかってくるほんっっとあれこれどうでもいいわぼけー、なかんじがひたひたと満ちてきて、でももうたぶんだいじょうぶかも、って。ドバイの土地とその空気がそうさせたのかも知れないけど、それすらどうでもいいけど、べつにいいやー。

恋愛の話も結婚の話もちっとも出てこないし、前向きな将来とか希望とかも見えないしどうでもよいし、そこがまたすばらしくよいの。だってそんなのほんと大きなお世話だし、そういうものじゃん?
こういう映画、もっとあっていいのに。

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