10.03.2021

[film] 7th Heaven (1927)

9月26日、日曜日の晩、シネマヴェーラのサイレント特集で見ました。

邦題は『第七天国』。監督Frank Borzage - 主演Janet Gaynor & Charles Farrellによるこの特集での3本目。Janet Gaynorは、これと”Sunrise” (1927)と“Street Angel” (1928)の3本をあわせて第一回のオスカー主演女優賞を貰っている。異議なし。

制作年の順でいくと”7th Heaven” (1927) → “Street Angel” (1928) → “Lucky Star” (1929)で、今回の特集で見た順とはまったく逆なのだが、この順番で見てよかった気がする。 放射されるエモの総量はこの順番で膨れあがっていくかんじがある。

原作はAustin Strongによる同名戯曲 (1922)で、1937年に監督はHenry King、Simone Simon & James Stewartの競演でリメイクされている - こっちも見たいかも。

第一次大戦前のパリの下町で、Chico (Charles Farrell)は道路の下、下水道掃除の最下層の仕事をしていて、いつもいちばん底から星を見上げて、ここからせめて路上清掃に昇格したいなーって夢を見ていて、とにかくぜったい下を見ないから、おれはvery remarkable fellowだからな! っていうのが口癖なの。

Diane (Janet Gaynor)は同居している姉から日々鞭で打たれて虐待されていて、教会からあなたたちのお金持ちの叔父夫婦が見つかったかも、という連絡を受けて彼らと会ってみても姉妹の余りのぼろぼろさ故に逃げられて、それで姉はまたDianeを虐めて、ひとり外に投げだされた彼女はChicoとぶつかり、彼女が警察に引っ立てられそうになったところでChicoがぼくら夫婦だから、ってとっさの嘘をついてその場の難を逃れる。

それはほんとに一時の言い逃れのだからな、ってChicoがいうとDianeはしょんぼりして、でも警察は本当の夫婦かどうか見回りに来るぞっていうし、神父さんから路上清掃に格上げされてご機嫌になった彼は行くところがないなら置いてやってもいいよ、って自分の寝ぐら - アパートの狭いぐるぐる階段を7つ昇ったとこ - だから第七(階段)天国 - に案内して、そうやってふたりは仲良くなっていくの。

で、やっぱりずっと一緒にいたいね、結婚しよう! ってなったところで戦争始まりましたー 今日の午後に発ちますー っていきなりお触れがでて、逃げても隠れてもしょうがないし、ほら、おれはvery remarkable fellow! だからきっとだいじょぶだし、っていつもの調子で受けて行くことにしちゃうの。でも、ぼくらはずっと一緒にいるんだから毎日昼の11時になったらふたりで空を見あげて、”Chico - Diane - Heaven!” ってやろうな、って誓ったりするの。この辺の涙をこらえつつ延々続くふたりのお別れのシーン、書くとくさいし恥ずかしいのだが、見てみ。 ぼろぼろにやられるから。(みんな戦争の時にはこういうことやっていたんだろうな..)

戦地でChicoはDianeのペンダントを胸に11時の誓いをしながら戦うのだが、戦争の泥沼は凄まじく彼らを飲みこんでいってChicoの隊もやられて…  Chicoの仕事仲間で彼らと一緒のアパートに暮らす身重の奥さんもDianeと一緒にお祈りしていて、彼の方は片腕を失ってもなんとか.. だったのに。  これまでの作品だと最後には必ずふたりに奇跡が訪れていたものだが、今度のはさすがにむりか.. あんなふうに死んじゃうのであれば..  Diane、がんばって生きろよ、って誰もが思ったであろうそのとき.. (ここまで)。

愛があれば主人公は死なないのだ伝説はこの頃からできあがっていったのかも。こんなふうに主演女優賞の原型とか伝説もできあがっていったのかも。しかし、『幸運の星』では戦争で下半身不随になって、『街の天使』では半分おかしくなって、ここではあんなふうになって、いつも散々な目にあうCharles Farrellに対して、Janet Gaynorはいつもぎりぎりで自分を見失わないけどとっても一方的に不運に追い詰められてかわいそうで、こういう背後の役割分担のようなのってなんだったのか、とか。

サイレントなのに、このふたりの嘆き、悲しみ、交わしあう愛の言葉がごくふつうに頭の奥に聞こえてきて鐘の音のようにいつまでも響きあう、そういう映画たちでした。


この週末でロンドンの古本屋 - The Second Shelfの物理店舗が閉店した。5月に帰国する直前にお別れに行ったとき、ひょっとしたら、という話を聞いていたので驚かなかったけど、やはり残念。 古今東西の女性による本だけを集めた、フェミニズムなんてあったりまえよ、の古本屋で、いまだに売り場に「女性作家」という棚が作られてしまう日本では信じられないだろうが、女性による本だけでこれだけ見事な古本屋ができてしまう。ソーホー繁華街の小さな中庭のあるアーケードの小さな店で、最近、店の入り口の外観がほぼそのままラブコメみたいな本の表紙イラストに盗用されてしまう - しかも2冊も! - という珍事もあったけど、それくらい素敵なお店だった。

はじめて行ったのは2018年の11月、まだ店がオープンして間もなかった頃で、ダストジャケットの古本の美しさを教えてくれたのもここだったと思う - あああの時に買っておけば.. というのをいまだに何冊か思い出す - し、一番頻繁に通った(土曜日に発見して悩んでから日曜日に買うなど)古本屋はここだったし、棚の並びは鮮明に憶えている - 入ってすぐ左がBloomsbury - Hogarth Pressの作家と本、その隣にPoetry - し、いま自分の宝物になっている本のいくつかはここで見つけた。
 
彼女は不屈の人なので、またどこかにオープンしてくれると思うけど、あの店がないロンドンなんて.. くらいのかんじではある。 ありがとうございました。 そのうちどこかで再会できますようにー。

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