10.08.2021

[film] Love 'Em and Leave 'Em (1926)

少し戻って、9月26日、日曜日の昼にシネマヴェーラのサイレント特集で見ました。
邦題は『百貨店』。原作はGeorge Abbottによるブロードウェイ劇。

Hark! Hark! 朝だよ! から始まって、Mame (Evelyn Brent)とJanie (Louise Brooks)の姉妹はNYの安アパートに一緒に暮らして、姉はだらしない妹 – 服脱ぎっぱなしなど – にあきれながら、同じデパートに勤めに行ってて、同じアパートの同じフロアには同じデパートに勤めるBill (Lawrence Gray)もいて、MameとBillが共同の洗面所の順番を譲りあっていると横からJanieが平気で割りこむ、そんな3人。Billはどうしようもなく平凡そうなやつだけどMameと少しだけよい関係になりつつある。

彼らのデパート - Ginsburg’s Department Store - のウィンドウ・ディスプレイがいまいちだったので、上からBillとMameに指示がとんで、Mameの扇風機を使ったアイデアが上手くいったのに手柄はBillの方に行っちゃったり、従業員会の会費を管理しているJanieが見るからにガラの悪いLem (Osgood Perkins - Anthony Perkinsのパパね)にそそのかされて会費を競馬に使い込ませたり、Mameの休暇旅行中にBillとJanieがウィンドウの仕事をやったら散々なこと(猫が…)になったり、サプライズでアパートで待っていたらBillとJanieが仲良く戻ってきたところを見て気まずくなったり、Mameにとっては散々なひっかぶり系のことばかり起こって、まったくもう! ていう他愛もないコメディなの。

しっかり者でぜんぶひっかぶってしまうかわいそうな姉とフラッパーのいけいけで反省しない妹、の図がEvelyn BrentとLouise Brooksのファッションや髪型も含めて対照的なふたりによってきれいに演じ分けられていて、それが先端のデパートの先端を見せるウィンドウ・ディスプレイ制作の現場で、仕事も恋も、のようなかたちででんぐり返る20年代のラブコメで、男共は当然のように半端に悪いかバカかで、タイトルの通りとしか言いようがないきっぷのよさは素敵だわ。

で、Louise Brooksはこれを含む数本のNYモノを経て世界に飛びだしていくことになるのね。


Herr Tartüff (1925)

更に戻って9月24日、金曜日の昼にシネマヴェーラで見ました。 邦題は『タルチュフ』。

F. W. Murnauので、Murnau Foundationがレストアしたのは黒が深くてシャープでかっこいいねえ。F. W. Murnauのなかでは”The Last Laugh” (1924)と”Faust” (1926)の間に撮られていて、無敵としかいいようがない頃の。

原作はモリエールの同名戯曲で、これをCarl Mayerが映画内映画としてうまく映画のなかに組みこんでいる。

隠居しているお金持ちのおじいさん (Hermann Picha)がいて、家政婦 (Rosa Valetti)がずっとひとりで世話をしているのだが、彼女は彼の死後、財産をなんとか自分のものにしようと一筆書かせたり毒を盛ったりしようと悪巧みしていて、久々に実家に戻ってきたおじいさんの孫 (André Mattoni)がその様子を見てなんとかしなきゃ、ってなるのだがおじいさんは長年家に戻ってこなかった彼のことなんか信じてなくて、ただ悪賢い家政婦のされるがままになっている。

そこでぴかぴかに変装した孫は巡回映画の映写技師として館のドアを叩き、部屋で上映の支度をしてふたりに映画を見せる。その時に上映されるのがTartüff (Emil Jannings)のお話で、いんちき坊主の彼に痺れてめろめろになってしまった領主のOrgon (Werner Krauss)と彼に操られるままに屋敷でも金でもなんでも貢いで召使いも解雇して、最後には妻のElmire (Lil Dagover)まで差しだそうとするやばさ愚かさ滑稽さが描かれるの。

これを見たおじいさんは、わなわなして、家政婦はちっ.. となって..  闇の深さがそんなでもないとかわかりやすいとか、ハッピーエンディングでよいのか、とかあるのかもしれないが、写し絵のように見える館の様子とか、映画の上映が反転させる闇と光とか過去と現在とか、シンプルでもおもしろいテーマがいっぱい詰まっているので、やっぱしすごいなー、って。あとはEmil Janningsはもちろん、全員がやばいくらいに劇の、劇のなかの劇に組みこまれて邪悪なシワの襞一本一本を幻灯機のなかに浮かびあがらせる。

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