10.04.2021

[film] No Time to Die (2021)

10月1日、金曜日の晩、日比谷のTOHOシネマズのIMAXで見ました。

本来であれば2020年の3月末に見ることができたはずのやつで、BFI IMAXのチケットも確か買っていた(あれ、払い戻されたのかしら?)。 そこからたしか3回か4回延ばされたので、そのうちにこっちが死んじゃうわいいかげんにしてほしい、ってすぐ見る。

Daniel CraigによるJames Bondの最後の作品。いろんな意味で「最後」なのだが、以下、ネタばれしているかもしれない。

雪と氷に覆われた一軒家に寝込んでいる母親と娘がいて、氷原の向こうから能面を被ったひとつの人影がゆっくり現れて、母を襲い、娘は氷に覆われた湖に逃げるのだが追ってきた能面に捕らわれる、という不穏で不気味な冒頭。そこからMadeleine (Léa Seydoux)とイタリアで引退生活を楽しむBondになって、そこで亡妻のお墓参りに出かけた彼は墓ごとふっとばされ、突然現れた敵とのどんぱちが始まって、危険だしなんか様子がおかしいのでMadeleineとは駅でお別れする。

そこから暫くして、ロンドンの川沿いの高層ビルの1フロアを怪集団が襲って機密をUSBに入れてそこにいた科学者Obruchev (David Dencik)と一緒に運びだす。

その頃、ジャマイカで暮らすBondにかつての仕事仲間で、いまはCIAと仕事をしているFelix (Jeffrey Wright)からコンタクトがあり、キューバに向かうとそこに会していたSpectreのメンバーが皆殺しにされ、ここでもまたどんぱちがあって、こうして↑の案件 – MI6も噛んでいた機密プロジェクト“Heracles”が絡んでいたことを知り…

なにしろ2時間43分のやつなので、あれこれみっしり絡んでいるので各自見てほしい。かつての敵で獄中にいるBlofeld (Christoph Waltz)にも会ってM (Ralph Fiennes)にも確認して、Q (Ben Whishaw)を搾ってこき使うと、その障子の向こうにSafin (Rami Malek)が現れてMadeleineともうひとりを拉致していったので、BondはMI6としてロシアと日本の間くらいにある島に向かうことになる。

ロンドンを襲ったテロの1年後の“Casino Royale” (2006)でデビューしたDaniel CraigのBondは、従来型の悪の陰謀組織と戦うスーパースパイ、ではいられなくなった。テロは沢山の人を殺して、その悲しみと憎しみは多方面に伝播して自身をも傷つけて止むことがない、という事実を体現する存在としてスパイの老いや死とも向き合うことになる。彼が背負った悲しみ、憎しみ、恨みは彼が登場するシリーズの基調音として常に流れて彼を蝕んでぼろぼろにしていく。もはや先端ガジェットやその機能の一部のようだったBond Girlsはなんの意味も持ちえない。あくまで大英帝国の007であってほしい、というマーケットの要請と英国なんてとうにしょうもなくなっているだろ – でもアメリカに比べりゃまだ.. というDaniel Craigの選んだ道の乖離とそのバランスと。 (アメリカでは相変わらず巨大悪(の組織 or 魔物)と戦う漫画が”Mission Impossible”や”Fast & Furious”のシリーズとして、あるいはMCUのような宇宙で再生産され続けている。おもしろがる分にはよいけど、いいかげんどうなのか、というのはずっと思っている)

今回のBondはそんな人間サイドの生々しいありように一応の決着をつけるものになった。スパイはスパイである以上、人を、特に愛する人を不可避に傷つける存在として、Untouchableなそれとしてしかありえないのだ、という苦い認識が彼を覆って引き裂いて、それでも...  というラストがすばらしい。ル・カレの小説のような生きた苦み。 ここにもはやスパイ活劇としての爽快感はなくて(必要としない)、”No Time to Die”というのはBondではなく、Madeleineともうひとりに対して言わんとしていることなのでは、くらいのことを思う。

というシリアスなところと、一匹狼であることを選んだ初老のスパイが直面する困難をやや面白おかしく、というところもある。現れたCIAの若手Logan (Billy Magnussen)はただのバカだし、同じCIAでも研修を終えたばかりだというPaloma (Ana de Armas)はかっこいいし、Mは明らかに現場感覚を失ってついてこれなくなっているし、新たに007ナンバーを襲名したというばりばりのNomi (Lashana Lynch)がいる、自分ははっきりと時代遅れの番号なし - 記号になることすら許されていない。

シリアスな方を削っておもしろおかしいノリのまま乗り切る、という選択肢もあったのだと思うのだが、Daniel Craigのガンアクションて、良くも悪くもクラシックで他と混じりあわないかんじがして、あえて(最後だし)というのと、これまでのBondものにはなかったMadeleineとのエピソードをどうするのか、というこれもバランスみたいのも絡めて、どこか譲れないものがあったのではないか。

脚本に参加しているPhoebe Waller-Bridgeがどこにどこまで絡んでいるのか。本人はSouthbankでのトークで、ロマンチックなところを少々、とか語っていた。女性エージェントのパートは勿論そうだと思うが、ラストのMadeleineとのダイアローグは彼女が書いたのかしら?

あと、やはり気になるのは、悪役としてのSafinの毒と闇の希薄さ、だろうか。なぜ彼はあそこまでの悪の道を深めて組織してきたのか、なぜロシアと日本の間の島設定なのか、なぜお能なのか、などなど。

既にあちこちで話題になっているQの自宅公開シーン。セイロでズッキーニはわかんなくもないけど、置いてあったワインて、Saint-ÉmilionのChâteau Angelusじゃなかったか? こいつでメインとチーズはどうするつもりだったのか、レシピは誰ので、「彼」ってどんなやつなのか - Benji (Simon Pegg)がやってきたりして.. - などなど。「Qの最悪の一日」というタイトルで60分のショートを作ってほしい。ぜったい当たるから。

次のシリーズでQは女性になるのではないか。それとデータ解析系とメカニックは分けるのではないか、とか。(→ F&F化)

あと、あの島をあの状態のままミサイルでふっとばすと深刻な海洋汚染を引き起こすことにはならないの?

あと、ふつうあのレベルの機密情報をああいうビルの中層階に置くことはないし、そういうとこに置く端末をUSB書き出し可にすることなんてないし、そういうとこのデータは削除したからって消えるもんではないし、そもそもあの場所にあんなビルはないし。

やっぱりBFIのIMAXで見たかったなー。 日比谷のIMAXのあまりの音のしょぼさにびっくりしたわ。
 

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