10.22.2021

[film] La cordillère des songes (2019)

10月17日、日曜日の昼、岩波ホールで見ました。
邦題は『夢のアンデス』。英語題は” The Cordillera of Dreams” - 「夢の大山脈」。

激烈としか言いようのないドキュメンタリー - “La batalla de Chile” (1975)-『チリの闘い』が描いた1973年9月11日のチリのクーデターの際に拘留され、釈放後そのフィルムを抱えてフランスに亡命したままとなっている監督Patricio Guzmánが“Nostalgia de la luz” (2010)-『光のノスタルジア』、”El botón de nácar” (2015)-『真珠のボタン』に連なる最新作として制作したドキュメンタリー。2019年のカンヌで最優秀ドキュメンタリー賞を受賞している。

アタカマ砂漠に眠る虐殺された市民 = 家族の骨を掘る遺族たちとアンデスの天文台が掘り続ける宇宙の神秘を繋いだ『光のノスタルジア』、パタゴニアの原住民の石とチリの海底の記憶を結んだ『真珠のボタン』、ときて、今回はシンプルに首都サンチャゴの真ん前に聳えるアンデス山脈を中心に持ってきて、その揺るぎない姿をなんだろうこれ? って見ているような。サンチャゴは仕事で何回か行ったのだが、確かにあのどこからでも壁のように聳えたつ山々はなんかすごくて、東京で見る(見えてうれしい)富士山とはちょっと違う。

ピノチェトがクーデターによって政権を奪った後、シカゴ学派の理論の強引な適用による経済の自由化 – 新自由主義が国のありようをどう変えていったのか、鉱山資源は多国籍企業に独占されて空洞化し、貧富の格差は拡大し..(以下略)。 映像は何度も何度も1973年のあの時、あそこで振るわれた暴力、奪われた理想、殺されて引き裂かれた人々の元に還っていく。彼らの命と引き換えに得た現代がこれだよ.. って。

その時から(その前から)ずっとそこにあったアンデスの山々と、そこの岩石を切り出して作品を作る彫刻家、歴史について書いている作家、80年代から人々のデモの映像を撮り続けているカメラマン、彼らの言葉や行動を紹介しつつ、決して明るい未来なんて語らないもののアンデスの山として/と共にそこにあろうとする。それは不知火の海と同じなにかなのか別のものなのか。

あとは今は落書きされた外壁だけの廃墟になっているPatricio Guzmánの育った家 – かつては家族が集いみんなが楽しく過ごした日々 – あれらはどこに行ってしまったのだろうね – って山肌に聞いてみても何も返ってこない。でもその記憶はここにこうして残っているから、と。あれだけの血と暴力の嵐を経て、すべてが失われてから50年が過ぎても。

そして、改めてクーデター時の映像は何度見ても怖い。この命令を出して実行した権力者も恐ろしいが、実際に人々を引き摺り倒し圧し掛かり、棒や拳で殴って地面に押し倒す、それを集団で実行していく軍や警察の人たちひとりひとりが怖い。この人たちはなんでそんなことができてしまうのだろう? と。


理大圍城 (2020)

10月14日、木曜日の晩、”Wrath of Man”を見て帰ってきたあとに山形国際ドキュメンタリー映画祭の受賞作品発表、ということで見ました。英語題は”Inside the Red Brick Wall”。大賞であるロバート&フランシス・フラハティ賞を受賞した作品。

理不尽な法の施行に反対する香港の市民が政府によって弾圧され制圧された、その中心で理大に籠城して最後まで抵抗した学生たちと軍との数日間に渡る攻防のさまを描く。ひとりの監督ではなく前線で映像を撮影し記録として残そうとしていた人々の共同名で制作され、現場でライブで聞こえてくる声の他は経緯と時間の経過が字幕で表示されるのみ。それでも学生たちの感じていた怒りと徒労と絶望は十分に生々しく伝わってくる。

そして、すぐそこにある暴力に曝される恐怖って、上のチリのそれと同じと言えるのか違うのか。同じに見えるのは無表情で市民に銃を発砲したり見境なく捕まえて寄ってたかって殴る蹴る引き回すを繰り返す顔の見えない人たちで、チリのと同様に、とにかくどうしてあんなことができてしまうのだろうか、と。これって今のどの都市の抗議デモでもだいたい同じように見られる光景だけど、彼らは命令されて仕事としてやっているのだろうけど、それでもひとを殴って蹴って、場合によっては殺してしまったりするんだよ、なんでああいうことができるの? 彼らのなかに刻まれたどういう教えや学びが、人に対するどういう感覚がそれをさせているのか - 本当に知りたい。それを知らないと戦争はまた起こるし、戦争は起こらなくても日々の暴力や虐めは消えないし。人はそういうものだ、なんて考えてはいけない。

この状況はもちろん、日本でも同じだし、香港で起こったことは今の政権の連中だったら平気でやるし、むしろ絶対にやりたいのだろうし、やりたいようにやれるように統制や洗脳を強めているかんじは自分がこれまでに参加したデモで十分に窺うことができたので、あーあこわいよう、しかない。こわいやだやだ、ではだめなので、理由や仕組みをちゃんと勉強したいし、だからなによりも選挙に行くのよ。


Film Forumのキャロットケーキが販売再開だって。 世界でいちばんおいしい映画館スイーツ。デリダはここのバナナケーキがお気に入りだったそうだが、食べ比べてもキャロットケーキの方がおいしいの。あーあー。

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