9.22.2021

[film] Street Angel (1928)

9月16日、木曜日の夕方、シネマヴェーラのサイレント特集で見ました。
少し前にみた”Lucky Star” (1929) に続くFrank Borzage - Janet Gaynor - Charles Farrellによるメロドラマ。邦題は『街の天使』。

ソーセージ盗られた!太鼓壊された!とかざわざわしているナポリの街中をカメラが動いていく - 街全体がオペラのセットのようですばらし - と、Angela (Janet Gaynor)の家に入っていって、彼女が医師から病気の母のための処方箋を貰って、でも薬を買うお金がないのでどうしよう、って仕方なく通りに出て自分の体を売ろうと誘いをかけてみたりするのだがぜんぜんだめで、衝動的にカウンターで飲んでいる客の横にあった現金をひったくろうとしたところを捕まり、客引き&窃盗は未遂でも一年拘留とか言われて真っ暗になり、隙を見て逃げだしてなんとか家に戻ると母親は亡くなっていて、それなのに警察は追っかけてきて、そのときに匿ってくれたドサまわりのサーカス団にそのまま雇われる。

サーカスで巡回しているうちに元気になって、そこの占い師から今日あんたの愛が現れるよ、って言われて公園で絵を描いているGino (Charles Farrell)にぶつかり、サーカスの客を奪っていた彼とは初めは喧嘩ばかりでつんけんしてて、なぜか彼が彼女にくっついて巡業に加わってて、彼女の肖像画を描いたりしてゆっくり仲良くなっていく - 「あたしこんなんじゃないわ」-「でも僕にはそう見えるんだよ」 - のだが、彼女が興行で足首を折って続けられなくなったので、サーカスを辞めてふたりでナポリ(ナポリ.. あそこはやばいかも、って彼女は思う)に戻り、彼の絵で食べていくことにする。最初はお金がなくて彼女の肖像画も二束三文でしか売れないのだがふたりでいると楽しくて、やがて教会の壁画を任されることになって、お金も入ってきたしほら、って指輪をだして明日結婚しよう、って盛りあがったところで、かつてAngelaを追っかけて取り逃がした警官がドアを叩く…

いま連れていかないで逃げないから1時間だけ彼といさせて、って頼んで、でも彼は有頂天で天国にいて、彼女にとっても天国だけど地獄のディナーを過ごして、引き止めようとする彼をごまかして、何も告げずにいなくなり、1年間服役するの。で、しゃばに戻って彼が描いたはずの教会の壁画のところに行ってみると別人の絵がかかっていて彼はクビになったと言われるし一緒にいた家は蜘蛛の巣だし。延々散々探し歩いて、浮浪者のようになっているGinoとAngelaはどんなふうに再会するのかー。

幸福の絶頂から喪失のどん底までを、彼の描いた肖像画 - 宗教画のモチーフに繋いで映画全体がひとつの絵画を形成する天球のように覆い被さってくる。Angelaに再会した彼が「おまえか.. おまえなのか!」って狂ったように追い詰めていくシーンにはドイツ表現主義映画のような魂の底の暗さと強さが全開で - まじで殺しちゃうのかと思った - でもそれを可能にしているのはやはりこのふたりだから、としか言いようがない。

最後のディナーのテーブルで本当に嬉しそうなGinoと、それを全身で浴びながら過酷な運命に立ち向かおうとするAngelaの引き裂かれた表情の生々しさときたら。最初からずっと流れているオー・ソレ・ミオの旋律  - 彼がしょっちゅう吹いている口笛とそれに応える彼女の口笛、そこに教会の鐘の音が被さりオペラの大合唱になって襲いかかってくる。これがサイレントのおそろしさなの。

ラスト、奇跡のように教会に現れる出会った頃にGinoの描いたAngelaの肖像 - 彼女は「あたしはずっとああなのよ」って言うの - 出会った頃の彼の台詞に返すように。

でもやっぱりAngelaは彼に一言告げて出ていくべきだったのかも..



RIP Richard H. Kirk..
高校のとき、Cabsの”Three Mantras” (1980)に出会わなかったらたぶん死んでいた。嫌いな奴とかに会う時、自分を殺して貝にして生き延びるしかないときには”Western Mantra”を頭のなかで鳴らしていた。いまだにそうだわ。
ありがとうございました。

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