9月5日、日曜日の昼、”Miss Marx” (2020)に続けてシネマカリテで見ました。
英語題は”The Shock of the Future”。監督はカバーユニットNouvelle Vagueの片割れ - Marc Collin。
70年代の終わり、壁一面のモジュラーシンセとゴダールの“Numéro deux” (1975) - 『パート2』- のポスターが貼ってあるパリのアパートでAna (Alma Jodorowsky)が目覚めて気怠げにタバコを吸ったりしていると、彼女に広告音楽の仕事を依頼したらしい中年男が現れて締切の今日中になんとかしてくれないと困る、と文句を言い、彼女はがんばってみるけど機材が壊れていて、とか言い訳して追い返す。その後の電話の会話などからこの部屋は持ち主(含む機材)の彼が長期で空けているところにAnaが間借りして、機材も使わせて貰っていることがわかる。
シンセの修理に来た男がたまたま抱えていたリズムボックスRoland CR-78を試させて貰ったAnaは、これさえあれば! って気がしたので、それを強引に借りていろいろ試してみるのだが、結局締め切りには間に合わずにあーあ、ってなっているとそれ用の歌入れを頼んでいた女性 Clara (Clara Luciani)が現れて、ごめんできなかったのでキャンセルで、と謝ると、このシンセおもしろそう、って寄ってきたのでふたりでいろいろ遊んでいたらClaraが詞を書き始めて、ふたりでなんとか一曲こさえて、それを晩のパーティでお披露目して業界の人たちに聞いて貰おうぜ! って盛りあがる。
お披露目はうまくいったみたいな気がしたのだが、ターゲットの業界の人は「いいんじゃない」くらいの無反応だったので、Anaは泣きながら外に飛び出して、まあまあって別の男に近くのスタジオでレコーディングしているバンドがいるから行ってみよう、って誘われて、その演奏を見て話を聞いて少し持ち直すの。それだけなの。
なんか、シンセの登場が当時の音楽の世界にもたらした衝撃や驚きの話と、Anaがこの世界で成功したいんだ、っていう野望の話がうまく噛み合っていないかんじがした。スイッチを入れてツマミを回したり鍵盤を押したりすると予想もしていなかったような音の雲が現れてツマミの操作でその雲が粘土のようにぶにょぶにょしたり色や肌理が変わったり、そんな音を出したりミックスしたりしながらなにができるかわからないスリルに身を委ねる遊びの楽しさと、それを曲として組みあげてみんなに聴いてもらいたいって願うのって異なる欲望ではないか - 食材を探して料理を試行錯誤する楽しさと料理を食べてもらう喜びが別であるように - とか思うのだが、そんなことないのかな。
本作の会話の中にも名前 - Laurie Spiegel - が出てきて、映画の最後に捧げられている彼女を含む女性の電子音響/音楽家たちを取りあげたすばらしいドキュメンタリー “Sisters with Transistors” (2020) – 必見 - を見ると、みんな成功なんて考えずに好き勝手にやっているうちに気付いたら.. ってかんじなのだが。
音楽が誕生する瞬間、混じり合ってぶつかる何かが別のなにかに変貌するその魔法の一瞬がちょっとでも捕らえられていたらなー、って。『右側に気をつけろ』(1987) のLes Rita Mitsoukoの演奏シーンの、あのぞくぞくくるやつ。
Anaの部屋にレコードコレクターのようなおじさんが当時の最新の音楽を紹介しにくるところがおもしろかった。Throbbing Gristleの”United”からAksac MaboulとかSuicide(50年代ぽくて変なの、っていわれる)とか - うん、まあわかるよ - で、最後にシェフィールドからの革命だ、ってThe Human Leagueを流していくの ← これは正しい。あと、よいレコードを漁れる聖地として「東京」の名前があがるのだが、ほんと? 今じゃなくて70年末に? 西新宿?
日本ではどうか知らないけど、バンドのNouvelle Vagueって英国では結構人気で、カフェとかブチックでよく流れていることがあって、彼らがボッサアレンジしたNew Waveとかを聴くとなんかうずうず痒くなって家に帰ると爆音でオリジナルをかけてしまったりする。”Ever Fallen In Love”なんか特に。 この映画にもそういう効果はあるかも。
今日はLondon Film Festivalのチケット発売日で、まだメンバーなので一応サイトにアクセスしてざっとみて、ストリーミングで見れるやつの本数の少なさに泣いてる。 NYFFもそうだけど、現地に行って並んでもいいから見たいよう。
9.14.2021
[film] Le choc du futur (2019)
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