“MINAMATA” (2020)の公開に合わせてユーロスペースで土本典昭のドキュメンタリーを上映していたので、9月12日の日曜日に『水俣 ―患者さんとその世界―』を、19日の日曜日に『水俣一揆-一生を問う人々-』 (1973)を見ました。
個人的なことだが、わたしの大学の頃の恩師は、鶴見和子さんや今月初めに亡くなられた色川大吉さんらと水俣の調査団に参加して現地に行かれていた方だったので、水俣の話はずっと何度も聞いていて、(おまえのようなバカは)現地に行ってみなさい、と繰り返し言われた。けど、今もそうだけど底なしのバカでぼんくらだったのであまりきちんと向き合わないままで来てしまった。そういう激しい後悔を抱えつつ見る。
きっかけは何であっても、水俣の世界に触れるのに遅いも早いもない、寧ろ、今こそ向かい合うべき時ではないか、と強く思った。
チッソの工場が不知火の海に有機水銀を垂れ流して当初は奇病のような様子で苦しむ人々や手足が曲がり動けない子供たちや狂ったようになった猫があちこちに現れるようになり、亡くなる人もいれば、障害を抱えて苦しみ続ける患者さんもいれば、その介護で追われる人も出てきた。でも会社側は汚染水と病との因果関係を見ず認めずにやり過ごし、企業城下町として雇用の多くを負う自治体も騒いで風評を貶めるようなことをしてくれるな、と沈黙を強いたり裏工作で運動を分断したり、指をさされたくない人たちは沈黙し、やがて因果関係が認められ、それでも責任を認めようとしないチッソに対して、認定患者たちが立ちあがって大阪の株主総会に直訴しようと出ていくところまでが『水俣 ―患者さんとその世界―』。
でも、どちらかというと冒頭の船で海に出ていく夫婦とか、浅瀬でタコ捕りをする漁師とか、路地で遊ぶ子供たちとか、海と共に暮らす人々の姿とか家屋の奥で子供たちを抱く親たちの姿の方が残る。そしてその姿は病として現れていようがいまいが変わらずにどれもとても尊く美しくて、これが「患者さんとその世界」なのだとすると、この世界のためならやはり声をあげることにはなるだろう、と映像がストレートに語る。それは善と悪のように引き裂かれたコントラストをなす世界ではなく、ひとつの調和した世界 – 苦海浄土 – のように見える不思議、このありように触れる意義は大きいのではないか。
石牟礼道子さんがいたねえ。
この次の『水俣一揆-一生を問う人々-』は、『患者さん..』の後、一時的な慰謝料ではなく一生の面倒を見ろ、という交渉の場に移るのでよりハードに、激しくなる。前作が「なぜ彼らは声をあげたのか」だったとすると、こちらは「患者たちはどう闘ったのか」をダイレクトに叩きつける。地元では闘うことも叶わず亡くなった家族の魂と「怨」の字を携えた東京への巡礼の旅がいろんなうねりを孕んでぱんぱんの直談判へと突き進んで社長の胸ぐらを掴んで向き合い、補償内容、範囲をひとりひとりの名前をあげて詰めていくところは凄まじくて、なぜなら彼らはここで彼らの一生を問うているからなのだ、と。一生を問うこと、一生を背負って立ち向かうこと。
病が悪化して死んでしまわない限り、患者の病の痛みと苦しみは家族を巻き込んで死ぬまで続くのだから会社はそこまでケアするのが当然。 いまは割とあたりまえのように思えるこれらの議論が怒号と涙にまみれて、恫喝のようなところにも行って、それでもなかなか首を縦に振らせないカネと会社優先のおそろしさ。なにが彼ら会社員をそうさせているのか、そして「公害」なのに政治家たちが背後に隠れて出てこようとしない不思議、など。生への切実な問いと希求がこんな奇妙な構図をもたらしてしまう近代のありよう。
例えば、同じような交渉の場面がよく出てくるFrederick Wisemanの映画のそれとはなにがどう違うのだろう? とか。これは交渉ではなく一揆なのだ、いまここしか勝負する場と機会はないのだ、という絶望がー。
構図としては311の福岡から最近のコロナ禍まで、政治の責任を企業や自治体におっ被せて弱者- 被害者を分断して無力化して棄てようとする最近の手口とほぼ変わらない。というかここで学んで企業も政治家もより卑怯に狡猾になっていったのだな、って。
そして、でも、あたり前だけど、どの問題だってまだ解決していないんだよ。
本当にさー、8月に放置されて自宅で亡くなった人たち、政府の責任を問うことできると思うんだけど。もちろん、因果関係がー、とかデーターがー、とか向こうは言うのだろうが、ふつうに異常だしおかしいし悔しくない? だって連中は五輪とかやって遊んでたんだよ。
PTAの新作 - ”Licorice Pizza”の予告があまりによすぎて泣いている。今のこの瞬間、いちばん見たい。
Thanksgivingにやるのかー。
9.28.2021
[film] 水俣 ―患者さんとその世界― (1971)
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