8月8日、日曜日の昼、TOHOシネマズの日比谷で見ました。ここの日比谷のは初めて。
2005年にLin-Manuel Mirandaを中心に初演されたミュージカルの映画化。
冒頭、どこかの浜辺でUsnavi (Anthony Ramos)が子供たちを前に、マンハッタンの北西にあるWashington Heightsの物語を語り始める。
Usnaviがやっている街角のボデガを中心にリモ会社をやっているKevin (Jimmy Smits)、そこで働く親友のBenny (Corey Hawkins)、美容室の3人娘、Usnaviが思いを寄せるVanessa(Melissa Barrera)、Kevinの娘でStanfordから戻ってきたNina (Leslie Grace)、ボデガで一緒に働くいとこのSonny (Gregory Diaz IV)、彼らを育ててくれたおばあちゃんのAbuela (Olga Merediz)がいる。
Usnaviはいつか故郷のドミニカに帰りたいと思っているし、でも幼い頃にここに来た若いSonnyはそうは思っていない(パパのMarc Anthonyもそういう)し、Vanessaはここを出てイーストヴィレッジに引っ越そうとしているし、Ninaは学費のこともあるからStanfordはやめようと思っているし、美容室はブロンクスに移転しようとしている。みんなそれぞれに夢と現実のはざまで留まるべきか行くべきかで悶えていて、そこに等しく夏の暑さが被さって、とどめに大停電がやってくる。
ミュージカルとしてはひとりひとりの登場人物とそのコミュニティを音楽と共に軽やかに紹介して、そのなかでもUsnaviとVanessa、BennyとNinaのカップルにフォーカスして彼らの夢と現実とその行く末、悲喜こもごもを歌いあげる。音楽も作劇もとってもよくできたストレートな作品だと思った。
でもたぶん、この作品が狙っていたのはそれだけではなくて、このWashington Heightsに暮らす人たちひとりひとりの事情 – どこから来てどこに行くのか行きたいのか、を「多様性」なんて適当な用語で胡麻化そうとせずに見つめようとしたのだと思う。その時に彼らが先祖から背負ってきたそれぞれの音楽とリズムは格好の万能の道具になるはず – だけどこれまでのこういうとこの音楽って違いを際立たせたりとりあえず踊ってしゃんしゃんだったり、そんな使われ方ばかりだったんじゃないか、って。
プエルトリカンがいてドミニカンがいてペルビアンがいてメキシカンがいてジャマイカンがいてチャイニーズもいて、彼らの話す英語にいろんなクセがあるのと同じように音楽もぜんぶ違っていて、サルサでもマンボでもチャチャでも、彼らと会って話をしてて(話のネタはそういうとこにしか持っていけないので)音楽の話になると必ず、ちょっとステップを踏んでみようよ、簡単だよ! って誘われる。そんなの簡単だったためしがないのだが、でもいつもああ素敵だな、って思ってて、そういうのを思い出したり。
ちょうど”American Utopia” (2020)が四角四面のキューブにブイヨンの塊のように煮出した音楽のコクとフレーバーを、夏の路面にそのまま干して広げて風に散らしたかのような。
Washington Heightsには一回だけ、会社の同僚のお父さんの葬儀で行ったことがあった。会ったことも話したこともない、若い頃にTony Bennettの運転手をしていたという棺に横たわる彼にお祈りをして、本当に来てくれてありがとう、と暖かく言われてなんか行ってよかったかも、って思った – そんな記憶と共にある場所。たぶん偏見交じりだけどHarlemよりも緩くて居心地よさそうなかんじはした(もちろん、瞬間滞在風速での印象)。
あと、真夏の大停電はNYの2003年8月のを経験しているのだが、あれは楽しい思い出だった(辛い経験をした人がいたらごめんなさい)。道路の信号が消えているのでみんながボランタリーにマニュアル誘導してたり、バーは冷蔵庫がだめになるので大盤振る舞いしてたり、冷房が切れて暑いのでみんな外をぶらぶらしていたり。エレベーターも動かない(から外に出るのはめんどい)のでみんな開け放った窓からそれらを見ていたり。今のコロナ禍でこれが起こったらちょっと、相当怖いけど。
ミュージカル観点だと、Film ForumとかMoMAとかMoving Imagesとかの定期上映館でNYのミュージカルを特集するときに必ず論じられるBusby Berkeleyは押さえているし、同様にこんがらがって語られることの多いChita RiveraとCarmen Miranda(バナナはこっち)にも触れられているし、Fred Astaireの”Royal Wedding” (1951)への参照もあるし、今後特集のラインナップに加えられることであろう。
ミュージカル以外でも、実際の地域問題を少し東に寄っていったドキュメンタリー”In Jackson Heights” (2015)があるし、60年代のハーレムが舞台の”The Cool World” (1963)とか、ローワーイーストだったら”Raising Victor Vargas” (2002)とか、ここから繋がる新旧の素敵なNY映画がいっぱい浮かんでくる。
Usnaviの店で最初の方に出てくるFirmlandの箱ミルクも懐かしかったが、それよりも棚のとこにあるAdvilをひと箱ください.. 低気圧でしんでしまう…
ボデガなのに猫が出てこなかったのは明らかにキャスティングミスではないのか。
8.11.2021
[film] In the Heights (2021)
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