8.17.2021

[film] My Salinger Year (2020)

8月15日、日曜日の午後、Amazon UKで見ました。
UKタイトルだと”My New York Year”となっていて、”New York”が付いているとだいたいすぐ騙される。

Joanna Rakoffが2014に発表した同名回顧録(翻訳は『サリンジャーと過ごした日々』 - 未読)を原作としたカナダ/アイルランド映画で、2020年のベルリン国際映画祭のオープニング作品だったそう。

1995年、Joanna Rakoff (Margaret Qualley)は詩を書きたいでも小説家になりたいでもないなんかぼんやりとした状態でNYの老舗出版エージェントHarold Ober Associatesの扉を叩いて厳しそうな編集者Margaret (Sigourney Weaver)と面接してアシスタントとして採用される。

壁にはJ. D. SalingerやAgatha Christieの肖像写真が掛かり、コンピュータもなんもない、電子メールは信用されてない(95年だとまだそういう人いっぱいいた)どころか厳禁のオフィスで、彼女の主な仕事は“Jerry”(サリンジャー)宛に来たファンレターを全て読んで、やばい人がいないか選別し(ジョン・レノンの暗殺犯が『ライ麦畑..』を読んでいたことからきた予防措置)、定型の返事(ありがとうさようなら)を出してからシュレッダーにかける、というもので、手紙でいろんな人がいろんなことを書いてくるのその声に囲まれつつ、新しい彼に取り替えて新しいアパートに越して、エージェントの仕事について怒られたり優しい仕事仲間から学んだりしながら成長していく。

様式としては“The Devil Wears Prada” (2006)の鬼上司 vs がんばる新入りのそれにそっくりで、ただあそこまでのコメディとかドラマ性はなくて、主人公の仕事に対する情熱も仕事そのものの魅力についてもそんなに表明されていなくて、その辺の軽さ薄さをどう見るか、かしら。

やがて”Jerry”からの電話を取って名前を憶えてもらった彼女は、New Yorker誌に一度掲載されただけだった"Hapworth 16, 1924"の書籍(日本では荒地出版社から出てたよね?)を出す計画を田舎の小さな独立系出版社と進めるべくワシントン DCに向かったり、サリンジャーファンからの手紙に自分の名前で返事書いて怒られたり、Margaretとの関係も変わってきたり、いろいろあって、でもまあがんばりましたわ、みたいな内容。

主人公がサリンジャーを読んだことがなかったのはしょうがないとしても、手紙を書いてくる読者たちをあんなふうに出して、最後までサリンジャーの顔を見せないのであれば、その真ん中にあるサリンジャーの作品世界について - 少なくとも『ライ麦畑.. 』くらいは - もうちょっとその魅力とかその世界への繋がり(サリンジャーが隠遁したことも含めて)まで踏みこんでみてもよかったのでは、とか。それかサリンジャーがいなくなってしまった今の世界からその段差を振り返ってみるとか。

Joannaを遠くから見守る優しい編集者Daniel (Colm Feore)に妻がふたりいてやがて自殺してしまうエピソードはNew Yorker誌のWilliam Shawn(『「ニューヨーカー」とわたし』の)のことかと思ったけど、違うみたい。

JoannaがWaldorf Astoriaでひとりケーキを食べるシーンがあるのだが、90年代、あそこにあんな洒落たケーキはなかったと思う(実は奥の方にはあったの?)。でもあそこの古本屋のウィンドウケースはあんなふうで、宝石箱のようだった。今はホテルの中にはなくてMadison Ave.に移転したのね。

“Never Rarely Sometimes Always” (2020)に出ていたThéodore Pellerinがサリンジャーに挑戦的な手紙を書いてくる読者として印象的な影を落としていて、よいの。

音楽はThe Magnetic Fieldsの”No One Will Ever Love You”なんかが地味に聞こえてきて、一番派手なのでもElasticaの”Connection” くらい。

もうちょっとだけ、90年代のNYを感じさせてくれたらー に尽きるかも。



災害とかアフガンとか大変なのでニュースを見たりするのだが、コロナについては医療逼迫の惨状について散々報道するけど、対策については結局政治家のステートメントを垂れ流すだけで、誰もがわかっている経済面の補償(金くれれば動かないよ)とかには一切踏みこんで語ろうとしないのって、バカとしか言いようがない。ロックダウンしたら罰則が.. とかばっかり。ロンドンで期間中は毎日買い物に出てたけど行くとこは近所のスーパーしかなかったから警察になんか言われたことなんて一度もなかったわ。戒厳令とかと勘違いしてない? 
 

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