5.29.2021

[film] Exhibition (2013)

5月18日の晩、BFI PlayerのSubscriptionで見ました。Joanna Hoggの長編3作目。日本公開は.. されていないねえ。
元は“London Project”と呼ばれていた作品で、映画のロケーションとしては前2作のタスカニー → シリー諸島 → ロンドンときている。

これの前日に見た”Archipelago” (2010)には音楽がないのだが、最後に女性 - 姉Cynthia役のLydia Leonardのアカペラで”Cynthia's Song”という歌が静かに流れる。それのクレジットが詞:Joanna Hogg, 曲:Viv Albertine、となっていて、あ、って思ったのだったが、感想に書くのを忘れていた。

事前に調べたりしないで見ているので、まずViv Albertineのクレジットとお姿を見て、前日に続いてあっ、となる。主演は彼女が演じるD (Viv Albertine)とH (Liam Gillick)のほぼふたり。前2作で中心にいたTom Hiddlestonがぱりっとしたスーツを着た小綺麗な不動産業者として少しだけ出てくるのみ。

舞台はDとHが暮らすロンドンの西のモダンな邸宅。 この映画が捧げられている建築家James Melvinのデザインによるもので、調べてみるとHolland ParkとKensington Palaceの中間くらい - 高級住宅街どまんなかにあって、惜しいことに2019年に取り壊されている。で、DとHはどちらもアーティストで、子供はいなくて、18年くらい暮らしたこの家を離れて、ふたりの関係もどうにかしようとしているらしい。

Dは、パフォーミング・アーティストのようなのだが、それが見えてくるのは後半くらい - 全裸にテープを巻いて照明をあてたり - で、初めのうちはデスクワークをしていて、上のフロアにいるHとインターホンで連絡を取り合ったりしていて、Hの方もどういうアートの人なのかは、明示されない。ただ、生活に困っているかんじはまったくなく、お金持ちのボヘミアンであることは確か。

ふたりの関係はあまりうまくいっていないようで、一緒のベッドでなにかやろうとしても一方が死んでいたり、Dは椅子の縁で自慰のようなことをしていたり、裸で猫のようにごろごろしていたり、でもそれが不仲の原因ではないようで、その不仲も、喧嘩や殴り合いをしているからそう、というわけではなく、ただ刺々した断絶とか分断があることは確かで、それがこの家に起因するのか、それぞれのアートの志向に起因するのか、年を経たからなのか、一切説明されることはない。

とにかく、ふたりとも漠とした不安や苛立ちを抱えたままずっとそこにいて、互いを愛せる状態にないことはわかっていて、でもなんとしても別れないと嫌なのかというとそれほどでもない、家を手放そうとしているのもそれ故なのかどうなのか、それすらもわからない。ただ、1階(日本では2階)と2階(日本では3階)の間に丸い吹き抜けと階段と変なエレベーターがある、やや特殊な構造の家にずっと一日中暮らして、家のなかの細かな音や周囲の工事の音などに晒されていることで、ふたりになにかが起こったのではないか、ということはなんとなく伝わってくる。

少し話は逸れるのだが、NY(マンハッタン)を舞台にした映画って、NYのビジュアルが出てこなくてもアパート内に聞こえてくる音ですぐそれとわかる。それと同じようにロンドンもフラット内の床がたてる音、外から聞こえる工事の音、教会の鐘の音、などでわかるの。 工事の音なんてどこも同じじゃないの? 違うんだよ。

“Unrelated” (2007)も”Archipelago” (2010)もひとつの家空間に家族や親戚が集まってくる話だった。その人数は作品を経るごとに減っていって、今作ではついに夫婦のふたりだけになった。更にこの作品は家に集まる話ではなく、家から離れる話で、その因果関係(家なのか人なのか)はわからないけど中心にいる家族はなんらかの不和や傷を抱えて互いを信じたり愛したりすることを止めている、とか。ひとつ屋根、というのはそういうものなのか、家族集団、というのがそういうものなのか。 というあたりを映画というよりパフォーマンスを収めたフィルムの固定画面のテンションで並べていく。かんじとしてはMiranda Julyのやっていることに近いような。

でもまあ、家族は仲良くあるべし、なんて別に誰も言っていないから。絆とか言って興奮してるのはどこかの国のバカな政府だけだから、この描き方はよいの。 家は古くなれば壊れるし朽ちるし、家族だってそれだけのこと、というのを淡々と伝えていて、ふたりのノン・アクター - H役のLiam Gillickも2002年にTurner Prizeを受賞しているアーティスト - の「演技」から遠い挙動がそれを支えている。タイトルの”Exhibition”は、アーティストが目指すところのもの(≠ Home)くらいの?

それにしてもViv Albertineの堂々としてかっこよいこと。映画を見ながら彼女の毅然とした目と動き、誰かを思い起こさせるなー、ってずっと思っていたのだが、ひょっとして、Agnès Vardaかも、って。

では、そうすると、Joanna Hoggの現時点の最新作 - “The Souvenir” (2019)をどう位置付けるべきか、になってくるの。 やはり彼女のデビュー短編 - “Caprice” (1986)に遡って考えるべきなのか。今年のどこかで絶対公開されてほしい”The Souvenir: Part II” (2021)には、”Caprice”の主演だったTilda Swintonさまが出られる(共演者もすごい)し、“Caprice”と“The Souvenir” Sagaの関係について(どういうものかは言ってないけど)、監督自身がトークで語っていたし。

なので、今年いちばん見たいのは”The Souvenir: Part II”なの。LFFかNYFFでやるのなら、なんとしても飛んでいきたい。


シアターや美術館が開いてとっても楽しそうな英国(泣)で、ついにKelly Reichardtの”First Cow”が公開されて、公開記念で、ShoreditchのCrosstownドーナツの店に行って「MOO」って鳴くとドーナツ貰えるんだって。いいなー。Picturehouse Centralで映画みるとき、よくCrosstownのドーナツ食べてた。恋しい..

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