5.02.2020

[film] La bête humaine (1938)

4月25日、土曜日の昼間、MUBIで見ました。なんとなく。何度でもみたいJean Renoirのクラシック。
原作はゾラの『獣人』。このタイトルだと怪奇ものみたいになってしまうが、そのまま英訳すると“The Human Beast”なので「人間の獣」で、たいして変わらないかも。

Jacques Lantier (Jean Gabin)はパリとル・アーブルの間を行き来する蒸気機関車の運転士で、代々の先天性の遺伝で女性に対する暴力衝動を抑えきれなくなる性癖があり、本人はそれを苦にして社会には関わらず、機関車の運転をしているときだけ大人しく真面目になれて、地元にいる許嫁のFlore (Blanchette Brunoy)との関係もぎこちない。

ル・アーブルの駅の助役のRoubaud (Fernand Ledoux)とその妻のSéverine (Simone Simon)がいて、猫のように奔放なSéverineと名士でお金持ちのGrandmorinとの過去の関係に逆上したRoubaudが、妻と一緒にGrandmorinを電車の個室内で殺して、たまたまそこの廊下に居合わせたJacquesは見て見ぬふりをしてくれたので、それを機にSéverineとおっかなびっくり仲良くなっていく。

事件を機にぎこちなく険悪になっていく夫婦、逆に親密になっていくSéverineとJacquesは、卑しく堕ちて陰鬱で目障りになっていくRoubaudを殺してしまおうとするのだが、Jacquesの獣性が思わぬところで.. (驚愕の展開)

ゾラの原作とはFloreとのこととか、ラストも違った気がする(たしか)のだが、映画の方はそれぞれの性(さが)をコントロールできないまま犯罪の方にゆっくりおちて破滅していくトライアングルのコントラストを描くノワールなの。 先天性の闇が思いがけない形で表に出てきてしまうJacques、衝動で犯してしまった殺人を機に転落していくRoubaud、ふたつの影の間を気儘に狡猾にすり抜けていく猫としてのSéverineと。 都会のノワールにない要素があるとしたらひとつ、問答無用、制御不能のパワーですべてを暴力的になぎ倒していく機関車があって、これに身を任せていたJacquesは最後これによって自身を終わらせる。

ヘッドフォンで聴いていると冒頭の機関車の音とか凄まじくて音量をあげてしまう。昔の映画って音が小さめのが多い気がするのだが、これを劇場の爆音でやったらぜったいすごくなるはず。うるさいわこわいわ。

Jacquesの職業は、この時代だと蒸気機関車の機関士だけど、少し後になれば自動車とかオートバイとかトラックとかのドライバーになるのかも。で、思い出したのがこないだCinémathèque françaiseのHENRIで見たJean Epsteinの”La Glace à trois faces” (1927)。 これは自動車による同様の悲劇だったかも。

また、先天性の病気を隠すために人と関わらなくて済むような仕事 .. っていうと今ならプログラマーとか。で、殺人を目撃した主人公はSNSで彼女に近づいて..  ここからは割とどこにでも転がっていそうな犯罪話になっちゃう気がする。
これ、疫病が蔓延してDistancingが行き届いた社会だったら、ひょっとしたら起こらなかったかしら?

あと、猫映画よね。 Séverineがそもそも猫(♀)だし、彼女は最初猫を抱いているし、夜、Roubaudがこっちに歩いてくる(Jacquesは彼を殺そうと待ち伏せしている)シーンで後ろの方にいるの。


5月の空と雲は4月のそれとはやっぱり違うねえ、って思って、しかも毎年おなじことを思うねえ、っていうのとそれを思うのはいつも4月と5月の間と9月と10月の間だけかも、って。 そういうお天気の日でした。

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