7.04.2021

[film] 愛のうず潮 (1962)

6月27日、日曜日の午後、シネマヴェーラの新珠三千代特集で見ました。 

ル・シネマのロメール特集で、50-60年代初の嫌な男連作(としかいいようがない)短編を3つ見たあとで、にっぽんのものすごく嫌な男が立ちあがる。 フィルムは退色してほぼまっかっかだったが、おもしろかった。

百合ヶ丘団地(おそらく当時の先端住宅)に暮らす主婦 - 綾子(新珠三千代)は結婚して5年、生活は安定しているし大きな不満があるわけではないものの、近所の友人からがんばって妊娠して落ち着いた安心したとかいう話を聞くと、仕事が忙しくて夜も遅いのであまり相手をしてもらえない夫武彦(平田昭彦)のことを思って、でもやはり子供が欲しいので医師の指導を受けることにした、と夫に告げて協力してもらうことにする。けど、夫は仕事から帰っても疲れたってすぐに布団に入って寝てしまう。

丸の内の商社 - 日の丸物産に勤める武彦は専務(中村伸郎)ににぎにぎ取り入って、さらにNY支店長の座を狙って専務の秘書で社長の姪である浅見夏江(草笛光子)と関係を持っていた。夜に家に帰ってこないのはそのせいで、夏江は武彦と昼間からべったりしているので、社内でも噂になったりしている。

近所でろうけつ染めを習う主婦サークルに入っている綾子は、講師(上原謙)の紹介でアトリエに撮影にきた写真家の香川(三橋達也)に声を掛けられて、戸惑いながらも夫への当てつけもあって、誘われるままに会うようになる。それは武彦と夏江が会う裏側の時間で、そのうち武彦のNY行きが決まるのだが、その結果社内での噂は否定できないものになって綾子の耳にも届いて、でも開き直った武彦に逆ギレされて、もうやってらんない、って京都の兄のところに行くのだが兄からは夫のところに戻れ、って追い払われ、やっぱり帰りたくないので旅館をやっている友人(園佳也子)のところに身を寄せると、そこに香川が現れる。

もう夫のところには戻りたくない、という綾子に香川は一緒になろう、って返すのだが、その反対側の東京では妻と別れようとしない武彦にブチ切れた夏江の車が暴走事故を起こし、同乗していた武彦が足を切断するしないの大怪我になっていて、その報を聞いた綾子は…

仕事はいかにもできそうだが冷酷無比な商社マンの平田昭彦によるハラスメントの畳み掛けがすごくて、ネグレクト連打はもちろん、突然部下3人 - 児玉清がいる - を自宅に連れてきて延々飲み会(居座っていつまでも帰らない)をしたり、でもそんなの当然でしょどこが悪いの、のザマにあきれて、その鞭でどこまでも打たれ続ける新珠三千代ときたらサークのメロドラマの主人公のよう - 泣き崩れてもどこか冷静 - なのだが、でもあの結末はさあー。結局日本の歌謡曲演歌の世界 - 松尾和子が主題歌を歌ってくれる - になっちゃうのね。

武彦のあの末路は当然じゃん、だったとしても、綾子があの人にはやはりあたしが必要なんです、になっちゃうのがわかんない。うず潮は起こっても結局渦の中心に回収されちゃうのか、って。あの事故が起こらなかったらみんなそれぞれ幸せだったかもなのに、とか、東京に戻って武彦の介護をすることになった綾子の静かな復讐が始まる、とか、そっちの方を夢想しておこう。

ロメールの63年の2本の女性ふたり - パン屋の娘とシュザンヌはすたすた向こうに歩いて行ってしまうのだが、62年の綾子ははっきりと嫌な男の元に戻っていくの。 それはなぜ? をきちんと(エモではなく)言語化してこなかったツケが、女性活躍って口先だけで男性中心のいまにぜったい繋がっているのだと思った。


ずっと伝説だった名画座かんぺを手に入れることができた。うれしい。

過半数以下はよかったけど、やはり投票率に絶望する。ここが動かない限り将来はないわ。

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