7.19.2021

[film] 馬喰一代 (1951)

7月11日、日曜日の昼、シネマヴェーラの成澤昌茂特集で見ました。監督と共同脚本は木村恵吾。
英語題は”The Life of a Horsetrader”なので、馬喰というのは馬を喰う人でも馬のように喰う人でもないことがわかる。

昭和初期の北海道の北見に馬喰の米太郎(三船敏郎)がいて、馬喰としての腕は確からしく仲間にも一目置かれているのだが、大酒飲み、博打好き、喧嘩好きの三拍子で、稼いだお金を博打でスッたり、おだてられて全部下駄に変えてしまったり、家に帰ると病弱で寝たきりの妻はるの(市川春代)と一人息子の大平(伊庭輝夫)がいて、いつもすってんてんなので自分の家族にだけは頭があがらない。

こうして高利貸の六太郎(志村喬)にはやられてばかりで、そのやられっぷりを見ながら彼のことを想う酌婦ゆき(京マチ子)もいたりして、家族だけが心の支えだったのに、ずっと伏せっていたはるのがあっさり亡くなって、これを機に酒も博打もやめて太平を育てるのだ、って、三輪車を欲しがる太平のために村祭りの相撲大会に出て得意の右腕を痛めながらも三人抜きをして賞品貰ったり。 そのうち、成績優秀な太平をよい学校にやるにはお金が必要問題がでてきて、そのためにははるのが遺した貯金で買って育てたお馬ミノルを競馬に出して勝たせるしかないってがんばって、直前まで病で出られるか微妙だったミノルはなんとか出走することができて、感動的な逆転優勝をするのだが、ゴール直後に死んでしまうの…

このあとに米太郎も体を壊して寝てばかりの日々になり、太平は札幌の方に進学するのを諦めようとするのだが、ゆきも傍にいるからだいじょうぶだから、と旅立ちの日がやってきて..

感動的な父子もの & 動物もので、まず三船敏郎がとてつもなく安定したダメ親父をやって、そこに絡む志村喬も京マチ子も年を経るごとによい関係になっていくし、近所の馬喰衆との人間模様も素敵だし、お馬のミノルも目でちゃんとなにかを語ろうとするし、馬を走らせるシーンはダイナミックで迫力満点だし、見どころたっぷりの素敵な映画だとは思うのだが、やはり父親の米太郎のひとりどうしようもないバカさとガサツさが突出していて、すべての混乱と困窮を引き起こしたのはてめー(ひとり)だろいい加減にしろや、とは思った。 いやおれは馬のことしか頭にない馬鹿野郎なんで…  なんて言い訳も許したらあかんやろ、とか思ったらいけないのかしら。

ゆきも米太郎父子を助けるために六太郎のところに身を売ったり、そこまでする? - あんなバカ野郎に惚れちまったあたしだからさ - もいい加減にすれば、とか。 なのだが、京マチ子ってそういう無理をそんなのぜんぶ身に染みてわかってんだよどうしろってんだ、って全身で返してくる。 すごいよねえ。

ラスト、機関車で旅立った太平にどうしてもひと言言っておかねばならぬ、ってよれよれの米太郎は馬を走らせて、全力疾走した彼の馬は機関車にとうとう追いつくのだが、なにを叫ぶのかと思ったら「しっかりやるんだぞー」って。自分が太平だったらぜったい知らんぷりしたくなると思った。

終映後、「あのまま後続の列車に轢かれちゃえばいいのに」という声が聞こえてきて、それそれ、って。

画面が斜めになっているシーンが数回出てきたのだが、あれって馬目線なのか?

ほんとうはシリーズ化されて『帰ってきた馬喰』~『馬喰最後の勝負』~『さらば馬喰』とかえんえん続いてほしかったかも。


馬喰の気持ちいいくらいの豪快さに比べれば、大会関係者のとてつもないせこさが本当に恥ずかしいし情けないったら。

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