7.21.2021

[film] 今年の恋 (1962)

7月15日、木曜日の晩、神保町シアターの木下恵介特集で見ました。
これは何度も見たことがあるやつなのだが、単になんとなく好きだからー。

高校生の山田光(田村正和)と相川一郎(石川竜二)は親友で不良に絡まれていつも一緒に殴られてばかりで、やり返してやるんだ、って揃ってボクシング習ったりうだうだしてばかりで、光は家に帰ると婆や(東山千栄子)とやりあっているし、一郎も姉の美加子(岡田茉莉子)と言いあったりしていて、当事者以外は、互いの家庭環境についてしょうもねえな、という印象しかなくて、たまたま美加子の両親がやっている小料理屋の客としてやってきた光の兄 - 正(吉田輝雄)- 女性を連れている - を見ても、別のときに現れた山田家の父(野々村潔)も恋人の清子(高森和子)を連れているのを見ても、やっぱりこの家は... になってしょうもない。

周囲の雑音をよそに仲良くなっていく高校生男子ふたりと、育った環境がよくないとろくでもない子に育ちますのね、とつんけんする美加子と、そんなことばかり言っているからあなた結婚できないんですよ、とかぶつかりあいながら近づいていく正と美加子だったが、山田の父と清子がランデブーする京都に光と一郎が消えて、まったくもう、って正と美加子が車で彼らを探しに向かうの。季節は年の瀬で除夜の鐘も出てきて、こんな今年の恋は来年もね、って続くの。

親たちに替わって弟を大切に育ててきたつもりの姉と兄が、成長した弟たちの挙動を掴めなくなった途端に相手の家庭について文句を言い始めて、でもそうしながらその鏡で自分の家や自分自身の今やこれからも見ることになって、それを通して仲良くなっていく、そんなものすごく真っ当で他に転びようのないrom-comで、そういうのが弟たちの電車や部屋でのやりとりとか、それぞれの家の間取りとか、テーブルやお茶の間での親やばあややお手伝いさんとのやりとりとか、まだオリンピックでぶち壊れていく前のにっぽんの家庭で丁寧に展開されて、その腑におちるかんじときたら半端ないの。

弟たちが揃って不良にいじめられるような親友同士じゃなかったら、そういう弟を思いやる姉や兄じゃなかったら出会うことがなかったかもしれないふたりが、針の穴を抜けていくように互いのことを見て出会って、でもこれ弟のためなんかじゃないから、と言ったら最後、あとは恋におちるしかないって。

とにかく、岡田茉莉子がとてつもない。やかんをぴしゃりとひっぱたいたり、廊下で軽くステップを踏んだり、父(三遊亭圓遊)の「暮れの京都はいいぞぉ」に「アホ!」って秒速で返したり、その動きの反射の的確さと正確さときたら世界最強、唯一無二のコメディエンヌだと思う。『秋日和』(1960)と並んで敵にしたらぜったいやばいかんじの。

あとは、三遊亭圓遊と浪花千栄子の夫婦もよいし、東山千栄子も揺るぎないし、でもこの時代の若者たちって、ふつうに彼らに向かって「バカ」とか「アホ」とか言っていたのかしら? そんなこと言ってはいけません、って言われてきたけど。

今リメイクするとしたら、男子ふたりを恋仲にして、いろんな偏見や嫌がらせを背にふたりが逃避行する - それを姉と兄が追っていく切ないロードムービーになるのかもしれない。そうしたらコメディじゃなくなっちゃうか…


なんだか具合がよくなくて、横になると落ちて2〜3時間経っていたりする。冬眠の逆のやつだと思うー。

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