7.09.2021

[film] 結婚のすべて (1958)

7月3日、土曜日の午後、シネマヴェーラの新珠三千代特集で見ました。
誰もが知っている岡本喜八の監督デビュー作で、評判がよいのは知っていたけど見たことはなかった。

学生の康子(雪村いづみ)が主人公で劇団をやったりモデルをしたり活動的なのだが、冒頭でものすごく平凡普通のお見合い結婚をする兄(堺左千夫)の式を見て、帰るときに姉の啓子(新珠三千代)と大学で哲学を教えている堅物の三郎(上原謙)のかちかちに地味な夫婦生活を横から見て、もっと結婚は自由な恋愛に基づくものであるべきだわ、って、まずは三郎の教え子でバーテンダーをやっている浩(山田真二)に近寄っていく。

一人娘もいて家事と家計のやりくりに追われている啓子は、康子に連れていってもらった先端の喫茶店で知り合った雑誌編集者の俊二(三橋達也)と会ったり、三郎のところに結婚の立会人の依頼をしにきたカップルが玄関先でキスしているのを見てあたしのとこは… になって、啓子を「ホームボディ」 - あんなのほんとにあったの? - として記事にしたいという俊二に誘われるままに結婚相談所に行ったり、ダンスホールに行ったり、塩沢ときと契約結婚をしているという俊二の話を聞いたり、現代の結婚と恋愛のあれこれを知ってくらくら揺れる。

結局、俊二と会っていたことを隠す啓子の嘘が簡単にバレているのに怒らない三郎を啓子は惚れ直して、真面目に見えた浩の下宿に行ったら世話をする女性がいたのであんな奴やめだになった康子はそんなふたりを見直していいなー、ってなって、父の会社の仲代達矢とお見合いしましょ、と町に出ていくの。そりゃ仲代達矢だったらな。

世間がどれだけエロにまみれて扇情的になっていっても愛と結婚のありようは愛し合うふたりのために、ていうのがメッセージといえばメッセージぽいところで、その反対側に「結婚のすべて」ってでっかいタイトルを掲げて、世界はあなたのものお好きなようにどうぞ、って構えて揺るがない(結婚「が」すべて、ではない、とまでは言い切れないところはまだしょうがないのか)。 それを支えるのか裏切るのか、2分台のキャッチーで威勢のいい楽曲をちゃきちゃきテンポよく切り替えながら突っ走る84分。新人バンドのデビュー盤だったらいきなり★五つ貰えそう。(冒頭の「ウェディングロック」を歌っている女性はだれ?)

まだジェンダーの議論もフェミニズムもなかった時代、いろんなオトコの姿が描かれてどいつを選ぶかはあなた次第、になっているようで各オトコのありように対する批判的な目線は見事にない。女性側に選ぶ自由がでてきた(!)だけマシじゃないですか皆さん(?) 程度。 それにしても上原謙に三橋達也に仲代達矢に三船敏郎に小林桂樹(声)に、オールスターだねえ。

この辺から結婚相談所にマッチングサイトに花嫁エステに、幸福の押し売り洗脳ブライダル産業ができあがっていったのかー、というのもわかる。

そして、しょうもない夫に猿ぐつわされた哀れな新珠三千代に痺れて言い寄ってくる自由な(これはこれでやばそうな)男 - 三橋達也という構図はそのまま『愛のうず潮』(1962)でもきれいに変奏される。ラストにふりだしに戻っていくところも含めて。

コメディじゃなくなっちゃうかもだけど、上原謙は『めし』(1951)の上原謙のやなかんじの方が違和感ない気がする。どうせ同じような形でよりを戻すのでしょうし。


ついにカンヌで”The Souvenir Part II”が公開された。 どうせ死ぬならこれを見てから、の1本がようやく。

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