4.20.2013

[film] あれから (2012)

3月29日の金曜日の晩、渋谷で見ました。
この週はずっと上の階の「ベルリン・アレキサンダー広場」に通い詰めていたのだが、でぶのフランツを一旦中断してこっちに来た。 これの上映が終わってしまうというし。

12月にオーディトリアム渋谷でフラーの上映があった時に、その前の回で「孤独な惑星」やっていたせいか入り口のとこに竹厚綾さんが立っていて、それだけでうわー、てなった。 それだけだけど。関係ないけど。

お客さんに靴を履かせてあげるシーンで始まり、自分で自分の靴を履くシーンで閉じる。
311の日、歩いて帰宅するので靴を求める客の対応をしながら、彼女は被災地近くにいた恋人との連絡が取れないでいる。 数日後、漸く消息を確認できた彼は(震災前からそうだったのだが)精神のバランスを失って入院していて、余震の危険もあるので来ないでほしい、と彼の家族からは言われてしまう。

彼と会いたい、会いに行くべきか、行かずにおくべきか、の間で途方に暮れて壁を眺めてばかりの彼女の前に、突然彼が現れる。一度は二人が暮らしているアパートの部屋に、一度は友人の結婚披露パーティのビデオメッセージの中に。 それは現実なのか彼女の妄想なのかわからなくて、だがしかし、彼に何を言われても今の彼女にとってきついのは自分でも十分わかっている。

やがて彼女は決意をするだろう。
「あれから全てが変わってしまったけど、それでも…」という揺れる決意が、
「あれから全ては変わっていないんだ、だから!」に力強く転換する瞬間が訪れる。

「あれから」の「あれ」は、ふたりを引き裂いた311ではなかった。 ふたりで一緒に桜を眺めた「あれから」であるべきだったのだ。 それに気づいて、その線を自分で引き直し、自分の靴紐を固く結び直して立ちあがった彼女の目と顔だちはそれまでとははっきりと違うの。 この瞬間に立ち会うためだけでも劇場に足を運んでいいよ。

「孤独な惑星」でも竹厚綾さんの目は所在なげにアパートの壁と、その上の世界地図を彷徨い、今回も電車の動きをゆらゆら追ってばかりなのだが(そしてそれはそれで十分素敵なのだが)、あの最後の変化は誰が見たって鳥肌だろう。素晴らしい女優だとおもう。

最後のショットから流れる柳下美恵さんのピアノも滲みる。 最後の一音と桜の花ひとひらがきれいに重なる。
桜の季節に毎年上映してほしい映画。

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