3.07.2023

[film] Mass (2021)

2月26日、日曜日の午前、Tohoシネマズシャンテで見ました。邦題は『対峙』。
作・監督はこれがデビューとなる俳優のFran Kranz。

どんな話なのかは大体わかっていて、ものすごく重い出口なし(部屋から出たりの場面転換なし)の110分に渡る会話劇であることもわかっていたのだが、見たほうがよい気がした。これは対岸の火事、として済ませてはいけないようなー。

休日の米国聖公会の教会でばたばたと会議室の準備をしている事務の女性とアシスタントの若者がいて、とっ散らかっているなか、そこでこれから行われるセッションをコーディネートしているらしいセラピストの女性が現れて、ものすごく気を遣うセッティングにする必要はないが、殺風景すぎるのもあれ、というかたちを作って、そこで行われるであろうピースフルになるわけがない、かといって殺し合いになるとも思えない会話の時間に備える。

そこに向かう一組の夫婦 - Jay (Jason Isaacs) とGail (Martha Plimpton)は、途中の原っぱで車を停めて一息ついて緊張を解そうとしているのか、何かを覚悟しているかのような辛そうな面持ちで見つめ合う。原っぱの杭に刺さったリボンが片側に揺れている。もう一組の夫婦 - Linda (Ann Dowd)とRichard (Reed Birney)は先の二人ほど張りつめてはいない、どちらかというと疲れて打ちひしがれている印象を受ける。この時点では、どちらが被害者側の遺族で、どちらが加害者側の遺族なのかはわからない。ただどちらも息子を失った悲しみと苦しみから解かれてはいないことはわかる。

6年前に学校で起こったMass Shooting - 無差別銃撃事件によりJayとGailは息子のEvanを失い、LindaとRichardの息子のHaydenはその銃撃を実行した後に自殺している。記録映像や客観的データ、フラッシュバックを一切入れない - 当時の捜査資料を含め、当日に何が起こったのかの詳細は彼ら4人の間で十分すぎるくらい詳細に把握され、繰り返し頭のなかで再生されてきた。残された彼らにできることはそれしかなかったし、それだけのことをしても、6年が過ぎて法的な措置などがすべて終わっていても、彼ら4人の傷は癒えていないよう – なのでこのような対話がセットされたのか。

このセッションが行われる理由や狙い、他の遺族に対しても行われているのか - などについて、映画では一切説明されない。なので、ふつうであれば、理由もなく子供を殺された側が、そういうことをしてしまうような子供を育てた親を法理とは別のやり方で糾弾する、その責任を問う、率直に怒りや恨みをぶちまける、そういう一方的な矢印の場になるのだと思った。でもそんな簡単なふうにはいかない。

脚本は彼ら親たちの個々の属性 - 人種、宗教、職業、階層、政治姿勢、その違いがもたらす相対的なギャップ、などには着目しない。また、銃規制や陰謀論や格差や虐めといった社会のコンテキストにも踏み込んでいかない。それらのどのひとつに分け入っていっても着地点のようなものを見いだすことはできなかったと思う。

彼ら親たちは、どちらもそれぞれに傷つき打ちのめされ、感情のやり場を失い穴の底に延々落ち続けているような苦痛のなかにいる。JayとGailはなぜなんの罪もないEvanが標的にされなければならなかったのか、LindaとRichardは動物好きの繊細な子だったHaydenがなぜあそこまで変貌し、あんなことをしてしまったのか、劇中で何度も絞りだされるように繰り返される”Why?” - その答えはどれだけ捜査や裁判の資料を読んでも出てこないしわからない。 一番近くにいた、彼らを生んで育てた親なのに、6年経ってもわからない。

映画はその”Why?”のもたらす痛みが彼ら4人に共通したものであることを互いに発見して終わる。痛みは消えないし救いにならないかもしれないし、分かり合えているわけでは(おそらく)ない、でもハグをしてそこにある互いの痛みに触れることはできたのかも。

ただ、少しだけ意地悪な見方をしてしまうと、この劇は登場人物全員が白人で、キリスト教系で、そんなに経済的な格差もなく、同じ言葉遣いでの「会話」ができる、という(アメリカにしては)ぎりぎりの設定があって初めて成立するドラマだったのではないか、という気はする。

でも他方で、被害者側が加害者側に「極刑を望む」って平気で言い放ってずっと死刑をやり放題 & 憎悪の敵討ち文化が大好物のこの国の人たちはこういうのを見て少し考えてみたほうがよいのでは、とか。

俳優陣の演技は全員がすばらしかった。舞台劇でやっても面白くなったのではないかしら。

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