2月23日の祝日のごご、ル・シネマで見ました。邦題は『白いトリュフの宿る森』。
監督と製作はMichael DweckとGregory Kershawのふたりで、Michael Dweckといったらあのすばらしい写真集 - “The End: Montauk, N.Y.”を撮ったひとなんだから、こんなの見る。 Executive ProducerにはLuca Guadagninoの名前がある。
北イタリア - ピエモンテ州の丘陵地帯の森で、アルバの白トリュフを掘っている人々と犬々を追ったドキュメンタリー。
冒頭、上空からどれくらいの傾斜があるのかわからない山肌だか丘だかにへばりつくようにゆっくり動いていく人と数匹の犬が映されて、重力があるのかないのか、なにをやっているのかちっともわからないのだがなんだか素敵で引き込まれる。
The Truffle Huntersは文字通り、白トリュフを掘ってそれを売って生計を立てている人たちのこと(あと仲買人も少しでてくる)なのだが、彼らに一攫千金を狙うハンターのとげとげしいイメージは全くなくて、昔から車で山に向かって犬と一緒に掘って拾って売ってを繰り返しているほぼ老人の男たち、のことで、ナレーションもなく、ただ彼らの動きと彼らの言葉で昔から続いているこの地味な仕事について紹介する。
ダイヤモンドを掘るのと同じようにお金になるブツなので、場所を教えろとか犬を毒殺されたりとかきな臭い話もあるようなのだが、ここに出てくる人たちはうるさい、って昔からのやり方を変えていないらしい。もうやめた、っていう人も、もう高齢なのでもうじきやめる、っていう人も、奥さんにもうやめてって言われ続けている人も、いろんな人たちがいて、でも白トリュフだから - 白トリュフが故に、みたいに深く考えてやっている人はあまりいないような。ずっと昔からやってきて、犬もいるので一緒に掘るだけ、みたいな。
一人で暮らしている80歳のアウレリオはずっと愛犬ビルバ – すごくかわいい – と一緒で、もう先が長くないのでもうじきやめる - 自分の掘場はぜったい教えない - 自分が逝ってしまうとしたらビルバのことだけ気がかりなので貰い手を探してあげるんだ、とか。奥さんがいるカルロは、彼女からもう歳なんだから夜の森に出ていくのはやめてふたりでご飯食べてればいいでしょ、って事あるごとに言われ続けていて、でもフクロウの鳴く声が好きだからとか、適当なことを言って夜中に窓からこっそり抜け出したり。
でもやっぱり、彼らが何を語るにしても白トリュフの価値値打ち、その魅力みたいなところに話は行かない。お金の話をするのは仲買人たちの方だが、彼らにしても香りとか形についてあれこれ語るものの、買って売ったら終わりで、それが麻薬でも石ころでもたいして変わらない気がする。土を掘って出てきたものを拾って売る、それだけのものでしかないのだし。
そういう、ものすごく空虚で不思議な穴のまわりをぐるぐる回っているだけのような白トリュフ採掘 ~ 取引の現場は、であるからこそ奇妙な聖性に満たされているかんじがあって、ビジネスというより宗教的なやりとりのようにも見えて、彼らが犬と一緒にいる絵なんてまるで宗教画のようだったり - ここはわざとやっているのだろうが - でも、森に出ていって犬と一緒に穴を掘ってキノコを採る、これって不思議ではないけど、とっても尊い失われてはいけないなにかのように思えて、その姿のみを画面に納めようとしているような。
犬の頭にカメラをつけて犬になってトリュフを追う画面もあって、そこだけがたがたぶっとんでいるのも楽しい。
白トリュフを初めて食べたのは90年代 - NYの今はもうないPark Avenue Cafeというレストランで、白トリュフが入ったんですよ、と小さな別冊のメニューが出てきて、値段にびっくりしながら確かグラタンを戴いた。 黒トリュフとまったく異なるいろんな強さと複雑さが個人的にはものすごい衝撃で、その後のお皿が霞んでしまって、こんなにやばいもんには近寄らないほうがいいかも - 白トリュフものは塩とかオイルでじゅうぶん、などと思ったことだった。だからマグロにあんな値段がつくのはわからないのだが、白トリュフのあの価格はわかる気がする。麻薬取引に近い気もするのだが。
あーあんなふうに犬と暮らして毎日森に出かけるような暮らしでいいんだけど。本だけあれば。
ウクライナにもロシアにもあんな森、あんな老人たち、あんな犬たちはいるはずなんだ。
3.02.2022
[film] The Truffle Hunters (2020)
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