5月3日の午後、シネマヴェーラの特集『アメリカ映画史上の女性先駆者たち』から見ました。
邦題は『ポルチシの唖娘』。ああNYのVeselkaのボルシチが食べたいよう、ってずっと思っていた(今も思っている)ので「ボルシチの...」だと思いこんでいた。バカすぎて救いようがない。
フランソワ・オーベールの1828年のオペラ『ポルティチの娘』- ”La muette de Portici”を元にPhillips SmalleyとLois Weberが監督した作品。主演のかわいそうな娘を演じているAnna Pavlovaが唯一映画出演した作品、と聞いたら見ないわけにはいかないの。
上映されたのはおそらく、2015年にBFI(わーい)の35mmとNew York Public Library(わーい)の16mmからリストアされた版。当時としては空前の予算規模 - $300,000 -で製作されたものだそう。
17世紀、スペインの支配下のナポリで海辺の漁師たちは重税で苦しんでて、そんなのお構いなしに貴族は豪勢に暮らしていて、しっかり者で村を支える漁師Masaniello (Rupert Julian)の妹のFenella (Anna Pavlova)は唖だけど踊ったりしながら明るく幸せに暮らしていて、そんな踊る姿を海辺に遊びに来ていた総督の息子Alphonso (Douglas Gerrard)が見初めて、ふたりは恋に落ちてしまうだが、婚約が決まっている兄Alphonsoのそんなさまを見た弟のConde (Jack Holt)がこれはあかんやろ、てFenellaを城の牢獄送りにして、そこから王族と民衆の溝が深まって、更にひどいことにAlphonsoの婚礼の日に重税を追加したもんだからふざけんな、ってみんなの堪忍袋の緒が切れて、Masanielloをリーダーに決起した民衆がお城に突撃して門を破って..
慎ましく朗らかな漁民たちの暮らしとバカでいけいけな王族の暮らしの対比とそこを貫いたFenellaの無垢な恋が両側に波紋を呼んで、それがどす黒い邪悪な波となって民衆 - Fenellaの他にもかわいそうな女性が - に襲いかかり、その怒りの連鎖がじわじわと決起に向けて膨れあがっていく前半の悲劇的でオペラティックな描写と、お城への突撃が怒涛の大津波へと変貌していくスペクタクルの後半と。
後半はでっかいセット - 宮殿はハリウッドにあったお屋敷だって - で撮ったのだと思うが一揆の勢いはぐしゃぐしゃにすごくて、串刺しの生首は立っているわ人々は束になって死んでいるわ怒涛の描写がすさまじく、前半にAnna Pavlovaのダンスでうっとりしたのが霞んでしまう、その段差がすごい。
戦乱の世に翻弄された無垢な少女の悲恋、というのがそもそものオペラのテーマだと思うのだが、映画だとここまでエクストリームに行ける/やれるのだ、って製作者たちは見せたかったのかしら、とか。でもとにかく、見応えは十分だった。
Christopher Strong (1933)
5月7日、土曜日の昼にシネマヴェーラの同じ特集で見ました。邦題は『人生の高度計』。
監督はDorothy Arzner、原作はGilbert Frankauの同名小説、これをZoë Akinsが脚色した、Katharine Hepburnの映画出演2作目。
パーティの余興のスカベンジャーハントで、女性は結婚5年以上で浮気したことがない男性を、男性は恋におちたことがない女性を探してくること、ていうお題で引っ張られてきた国会議員のSir Christopher Strong (Colin Clive)と飛行士のCynthia Darrington (Katharine Hepburn)がぶつかって、はじめはどっちも自信たっぷりにつーんとしていたのにじりじりと恋に焼かれて、彼の娘のMonica (Helen Chandler)と妻のElaine (Billie Burke)のまさかあの人が.. ってなっていくさまをクールに描いていく。
男の方は典型的な英国の高慢ちき紳士やろうでどこが魅力的なのかちっともわからないのだが、Katharine Hepburnは車に乗っていても飛行機に乗っていても仮装パーティでぎんぎんの蛾に扮してもめちゃくちゃかっこよすぎて誰も文句いえずに見惚れるばかり。
彼女はひとりで世界一周の飛行レースに出てあっさり優勝して英雄になって、それが恋を加熱させて、Cynthiaは彼の子供を妊娠するのだが、そのことを彼に告げるのを踏みきれないまま、ひとりで飛行高度の記録に臨んで更新してあっさり墜落しちゃうの。“Courage can conquer even love”って。 Cynthiaの反対側にはずっと付きあっていたバツいちの男性と一緒になるんだって結婚して妊娠してみんなから祝福されたMonicaがいて、ふたりを単純に比べることはできないと思うものの、でもそんな世界もある、と。 そしてもし飛行士が男性の方だったら、果たしてどんな描き方になっただろうか? とか。
スカベンジャーハントからの出会いが恋に− というと、なんといっても”My Man Godfrey” (1937) - 『襤褸と宝石』があって、Carole Lombardのrom-comとして楽しくて、この作品もコメディにしようと思えばできたかもなのに、原作がそうだからなのかそっちにはいかない。Katharine Hepburnならこんなの余裕でコメディにもできただろうに、「なめんな」って正面から大見得きって貫いて一瞬でまっさかさまに。 人生の高度計 - 下の句は - てっぺん抜けてもすぐおちた。 ひょっとしてコメディのつもりなのかしら?
あと、なぜタイトルが男側の名前になっているのか、よくわかんない。
5.11.2022
[film] The Dumb Girl of Portici (1916)
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