5.28.2022

[film] 秋立ちぬ (1960)

5月19日の晩、神保町シアターの特集『子役の天才!戦前・戦後の日本映画を支えた名子役たち』で見ました。
原案は笠原良三、これを翻案して製作して監督したのは成瀬巳喜男。彼の少年時代のことが反映されているらしい。

小学6年生の秀男(大沢健三郎)が母の茂子(乙羽信子)に連れられて田舎から東京の銀座で叔父が営む八百屋のおうちにやってくる。父が戦死して行くところがなくて、母は着くなり近所の旅館「三島」に働きに出て、はじめは寂しくて泣いて、車の多い道路も渡れなくて、近所の子供たちと一緒に遊んでも馴染めなくて、友達はかぶと虫と気前よく仲良くしてくれるのはいとこの昭太郎(夏木陽介)くらいで、バイクでかぶと虫を探しに川の方に連れていってくれる。

そのうち母が働きに出ている旅館の一人娘で小学4年生の順子(一木双葉)と仲良くなって、デパートの屋上に行ったり、晴海の先の海まで遠出して遅くなってもなんだか楽しいのだが、旅館にいる茂子の評判があまりよくないので順子の母(藤間紫)は余りよい顔をしない。

母にも会いたくてたまらない秀男が町で茂子を見かけて駆け寄っても、彼女は真珠商の富岡(加東大介)と一緒でよそよそしくて、順子がかわいそうな秀男をうちの子にしたい、とかけあっても別に暮らすお父さん(河津清三郎)が許してくれませんよ、とか、それぞれの家にはそれぞれの事情があるようで、そのうち茂子は駆け落ちしていなくなった、と聞かされる。

やがて失踪したかぶと虫のかわりが見つかったので、それを順子に見せにいったら旅館「三島」はがらんともぬけの殻になっていて、しょうがないのでデパートの屋上にいく – そんな夏の終わりから秋がー。

よいこでいることだの通過儀礼だの、そんなのわかんないしどうでもいいし、なんでほしいものは手に入らないし、そばにいてほしい人はいてくれないのか、誰に文句を言ったらいいのか、って気が付いたら自分はひとりで、すぐそこにあったものや人たちが途端に遠くに - 屋上から眺める遠くの海のようにぼんやりしたものになっていた..  

このひんやりしょんぼりした、自分ではどうすることもできない感覚 – その感覚がひとりしかいない自分のこととして沁みてやってくる、わかるのが秋、なのかしら。


なつかしの顔 (1941)

5月21日、土曜日の午後、国立映画アーカイブの企画『NFAJコレクション 2022春』っていうので見ました。34分、併映は『熱情の翼』(1940) – こっちもとてもおもしろかった。

小学生の弘二(小高たかし)の家では戦争に出ている兄がいなくて、母(馬場都留子)と兄嫁(花井蘭子)と赤ん坊がいるだけ、冒頭にプロペラにくっついたゴムを巻いて飛ばす竹ひごと紙でできた飛行機 - 子供のころ作った、けどちゃんと飛んだことなかった – で子供たちが遊んでいて、木の上にひっかかってしまったそれを弘二が木に登って取ろうとしたら落っこちて怪我をして、しばらくは家でおとなしく寝ているように言われる。

少し遠くにある町にニュース映画が来ていて、そこに戦地にいっているお宅の兄ちゃんが一瞬映っているよあれは間違いないよ、って言われて、それなら見にいかなきゃ、になるのだが弘二が寝ているのでみんな揃って行くわけにはいかなくて、まずは母が行くことになる。バス代を節約するのに馬に乗せてもらったりして、弘二のプロペラ機をおみやげに買ってやろうと思うのだが値段を聞いて諦めて、上映が始まるのだが、見ているといろいろこみ上げてきて、目をこすっているうちに見逃してしまったらしい。

でも家に帰って聞かれると、うん、出ていたよ - 元気そうだったよ - とか嘘を言って、見てくるといいよ、ってなすりつけるように適当に言って、じゃあと今度は兄嫁が出かけるのだが、彼女は弘二のプロペラ機を買ってあげたらお金がなくなり、それになんかこわくて見ることができないので終わるまで劇場の外にいて、時間になると家に帰って、うん映っていたわ、って嘘をつくの。

弘二はお兄ちゃんいたんだ、見たかったなあ、って言う。この辺、言葉での説明とか一切ないのに、涙を拭う仕草とか、映画館の外で待っている時の表情とかでそれぞれの思いがすごくよく伝わってくるのでたまんない。息子や夫が戦地で戦っている姿なんて見たくない、けど会いたい、どんな顔しているのか見たいし心配だし、って。そんな彼女たちの嘘。それはどんなにか辛く、張り裂けるようなものだったことか。

やがてそのニュース映画を村でも借りて上映することにしたから、ってみんな揃って見に行くところで終わるのだが、ああやってみんなで歩いていった時の情景とか(描かれないけど)帰り道のこととかずっと後まで残っているんだろうなー。

みんな、画面で彼のなつかしい顔を見てどんな顔をしたのだろう? 彼がそのまま還らぬひとになって、『秋立ちぬ』に繋がってしまったのだとしたら悲しすぎる。


Cathal Coughlanも、Andy Fletcherも、Alan Whiteも、Ray Liottaも、みんななんで…

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