4.06.2021

[film] Un dimanche à la campagne (1984)

3月28日、日曜日の午後、Criterion Channelで見ました。

この3日前に亡くなったBertrand Tavernierの追悼特集が組まれていたので見よう、ていうのと、ちょうど日曜日だったのと。 英語題は”A Sunday in the Country”、邦題は『田舎の日曜日』。 同年のカンヌで最優秀監督賞を受賞(この年のPalme d'Orは”Paris, Texas”だった)していて、セザール賞も3つ受賞している。これまで見たことなかった。

原作はPierre Bost - トリュフォーがカイエの批評『フランス映画のある種の傾向』で攻撃した「伝統的な」作家 - の没後に発表された小説 - “Monsieur Ladmiral va bientôt mourir” 「ラドミラル氏はもうすぐ死ぬ」。

1912年の秋、パリ近郊の田舎の一軒家でLadmiral氏 (Louis Ducreux) が家政婦Mercédès (Monique Chaumette)と話したりしながら出かける支度をしている。毎週やってくる息子一家を駅まで迎えにいくようで、歩いて10分とか言っていたのだがこちらに向かって歩いてくる息子Gonzague (Michel Aumont)の一家とぶつかったのでおかしいな - 歩くのが遅くなったのかな - とか。 息子一家は他にGonzagueの妻のMarie-Therese (Genevieve Mnich)と、元気一杯の男児ふたりと少し体の弱い女の子がひとりの5人。

彼らが家のなかや庭を走り回ったり、みんなでMercédèsの用意する昼食(おいしそう)やお茶を囲んだりしているうちにLadmiral氏が画家で、それなりに成功していてまだ静物を描いたりしていること、長男が画家を継がずに結果的にこの家も継がないことになってしまった過去のあれこれがほんのり見えてきたりするのだが、それらはもう昔のことで、いまは孫たちの日曜日の遊び場になっていて、それでもいいか、って。

やがて長女のIrene (Sabine Azema)が犬のキャビアと一緒に(当時はまだ珍しかった)自動車に乗って現れるといきなりばたばた慌ただしくやかましくなって、パリでブティックを経営していて羽振りのよい彼女は屋根裏の化粧箱の古いレースを漁ったり、Ladmiral氏が描いていた静物画のセットを片付けちゃったり、長男とは別の騒がしさをもたらして日曜の午後を揺らすのだが、何度かパリの方に電話をかけて、相手が出ないことに苛立ったりしている。彼女が村のビストロに父とふたりで出かけて、修行時代の父の話を聞いたりしてふたりでダンスをするシーンはしんみりしてよいの。

基本はLadmiral氏の目線で、傍にMercédèsがいるとはいえ、このままひとりで亡くなってこの家も人手に渡って朽ちてなくなり、自分の絵画もそこそこの評価のままで終わってしまうであろう遠くない将来のことを静かに見つめる - その諦めと少しの後悔 - 若い頃、意地を張らずに印象派の波に乗っていれば.. とか、長男には車はないけどよい家族がいるし長女には家族はないけど車があるのだからいいじゃないかもう - などがさざなみのように寄せては返すある日曜日の終わり。 こんなのが毎週繰り返されたらちょっと嫌かも、とか。

もうひとつ、庭で遊んでいる白い服を着たふたりの少女の姿とか、Ladmiral氏の亡妻と思われる女性がソファにいる姿も映しだされる。これは彼にしか見えない遠い日の幽霊なのかも知れないが、彼らの存在が特に強調されることはなくて普段の日曜日に決まって現れるなにかなのかも、程度で、あとひとつ、嫌味のように繰り返されるもろ印象派だねえ、みたいな情景も引っかかる何かとして残ったりする。

あたりが暗くなる頃には彼はひとりに戻って、独り言を呟くわけでもなく、描きかけの静物画をどけて新しいカンバスを置いて、そこに彼はなにを、どんなふうに描くのだろうか、って。

ネットでは小津との比較とかを目にするのだが、ぜんぜん違うよねえ。小津の過酷さ残酷さなんてちっともない、これはこれでじゅうぶんに幸せでゆるゆるで素敵な老後ではないのか。 だれも死なないし。

それにしても、これが1984年。Jean-Luc Godardが”Passion” (1982)とか”Prénom Carmen” (1983)を出していた頃の1984年にこういうのを出してしまう、ってなんかすごいかも。
 

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