2.13.2019

[art] Parisところどころ

8日の金曜日、会社を休んでパリに行った。

これまでパリ行きはだいたい1泊か2泊で、小さめのがらがらを引いていったわけだが、時間的には電車で約2時間半の、千葉の外れとか神奈川の奥に行くようなもんだし日帰りできるんじゃね? と思っていたのをやってみる。普段ロンドンの街中をうろついているときの肩掛け鞄だけ下げて。 昨年の暮れに行ったときに悪天候でじゅうぶん動けなかったののリベンジ、もある。

6:54発のに乗って10:17にパリ北駅着。これなら美術館が丁度開いたくらいだし。以下、見ていった順番で。

Collections Privees. Un Voyage des Impressionnistes aux Fauves @ Musée Marmottan Monet

「印象派から野獣派までの旅 – 個人コレクションを通して」   .. でいいのかな。
個人蔵の作品って、こないだのフィリップス・コレクションのようなでっかいのを除けば傾向も含めててんでばらばらなのだろうけど、あんま見る機会があるものでもないしなんかあったらおもしろいな、って行ってみたらなかなかおもしろかった。 カイユボットの素敵なのが結構あって、モネもルノワールもドガもゴッホもゴーギャンも。 ルノワールのバナナを描いた静物、とか。スーラのデッサン(殴り描きのような)とか。 野獣派はそんなに数がない気がしたけどマティスの描いた浜辺 – ぜんぜんやる気なしっぽい – とか。ヴュイヤールも。ロダンの裏側に並んだカミーユ・クローデルも。
あと、ここに来ると必ず寄るベルト・モリゾのコーナーももちろん寄った。

Musée Jacquemart-André

こないだまでカラバッジョの展示をやっていたのにもう終わっていて常設のみ、しかも一部改修工事中だったけど。 貴族のお屋敷だったところなので展示というより建物込みで。レンブラントが貸出中だったのはざんねんー。

Sigmund Freud. Du regard à l’écoute   @Musée d'Art et d'Histoire du judaïsme

今回の旅のメイン。 英語にすると“From look to listen“。展示の説明書きはほぼ仏語、フロイトもむかしふつーに読んだ程度なのだが、ものすごくおもしろかった。19世紀末にパリに来てヒステリーの治療現場に立ち会って影響を受け、自然科学の「見る」態度から患者の言葉をどこまでも「聞く」ことを通して精神分析の手法を確立し、こころや無意識の構造 – なかでも「セクシュアリティ」という縛り= 力の存在を明らかにしていく、というフロイトが辿ったその道程と、同時期にヨーロッパを中心に展開されていった本来見えないもの(超現実)を見ようと、表に引っ張りだそうとするアートの動きはどんなふうに連関していったのか。そのリンクって明確にあるわけではないし、でもまったく関係ないわけでもない、少なくとも世界の起源を暴き、見据えようとするその意思と意識において共振するなにかがあったのではないか。

というわけで展示は彼の専攻の文献とか実際の治療で使った器具とか記録とかがひとつの流れを作りつつ、彼の成果をアートの起源(ローマ時代の彫刻とか)まで遡って、これってこういうことだったのよ、っていうのと、彼の成果に点火されるようにして起動されたシュルレアリスム以降・周辺のアート(エロてんこもり)の流れを追っていく。 だからといってあれここれもフロイトでしょすごいでしょ、にはなっていなくて、その緩さがまた楽しい。

精神分析という学問の、安易にトンデモ世界観に結びつき易い危うさは十分認識した上で、でもそれがアートの方に向かうと途端におもしろくなる、というのは改めてすごいなー、って。

Breton, Dali, Giorgio de Chirico, René Magritte, Ernst, Grandville, Odilon Redon, Max Klinger, Alfred Kubin,  André MassonにCourbetの『世界の起源』があって、Duchampの『泉』があって、KlimitにSchiele、Robert LongoにMark Rothko(赤いの)まである。ぜんぶがフロイト起源とは思わないけど、パレードでいくらでも出てきそう。

そういえばロンドンのフロイト博物館、まだ行ってないや。

Musée de la Chasse et de la Nature

フロイト展をやっていたユダヤ歴史美術館の近くにあった狩猟自然博物館。
武術・スポーツとしての狩猟は好きではないのだが、狩猟文化がなかったら、ということはたまに考えるし、英国の食事文化にも当然そういうベースはあるし、ということでいろんな剥製を見る。銃器のコレクションは見ない。

あとは、これまでパリの書店を攻めていなかったので、この近辺の書店を少しだけ。 時間なかったのであまり回らなかったけど、まだいろいろ行ってないとこあるけど、おそろしいねえ。

Fernand Khnopff (1858-1921)  The master of enigma  @Petit Palais

Grand Palaisでやっていたミロの回顧展を逃したのは痛かったねえ、と言いつつ隣のに。

ベルギー象徴派の画家、くらいの知識しかなかったのだが、”The master of enigma”とある通り、きれいだけどよくわかんない空っぽさに溢れていておもしろい。きれいであることにいったいどういう意味を持たせようとしていたのか、なにを求めていたのか、『スフィンクスの愛撫』とかを見るとわかんなくなるの。 変な画家。
関連作品としてロセッティとか、なぜか杉本博司の写真まで展示されていた。

Jean Jacques Lequeu (1757-1826)  Builder of Fantasy  @Petit Palais

これも変な画家? かなあ。 フランス革命期の建築家、変な顔の肖像を描いたひと、くらいの知識しかなかったのだが、見たら異様におもしろくて。
ほとんどが建築や庭園のデザイン図面とエッチングなのだが、リアルな変顔の人とか猫とか、建物もディテールをよく見るとしれっと奇想してたり、びっくりしたのが建築図面の硬く微細な線で機械のように描きこまれた男女の性器の絵(両性具備のひとのも)で、すっとぼけたかんじも含めてなにかしらこれ? だった。 顔と建物と性器の絵、生涯で残したのがほぼこれだけ? だとしたらかっこいいなー。

食べ物は時間がないから、ちゃんと食べなくていいや、だったがここのところちゃんとしたものを食べていなかった気がしたのでお昼だけ、La Bourse et la Vieに行ってSteak-fritesをいただいた。
NYのLe CoucouのDaniel Roseがやっているビストロで、2回目。 マリネしたとろとろのリーキにヘーゼルナッツを合わせるとか、さすがだねえ。

Petit PalaisのあとはLa Grande Epicerieに行って缶詰とかヨーグルトとか仕込んで、おわり。

なんも買って帰らないはずだったのに、帰りの電車に乗る頃にはカタログ2冊とPascale Ogierのでっかい本とIsabelle Huppertと猫(科の獣)が表紙のVanity Fairとかを抱えてよろよろしていた。おかしい。

帰りの電車は20:00過ぎ発で、ちょうど滞在10時間、到着してからの移動は地下鉄とバスだけで、じゅうぶんに動けることがわかった。 のでまた来たいな。

それにしても、この街に1週間とか滞在したらどうなっちゃうのかしら..  とか思ったり。

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