5日の晩、シネマヴェーラで『モーガンズ・クリークの奇跡』のあと、フロアをふたつ駆けおりて、オーディトリウム渋谷の「濱口竜介 レトロスペクティヴ」で見ました。
この特集、見たいのだらけなのだが、21時開始というのがねえ、時間はだいじょうぶでも体力的にきついのよね、この季節は。
Preston Sturgesにぜんぜん負けてない、奇跡のような映画でしたわ。
酒井耕との共同監督作品で、東日本大震災の被災者の証言を集めたドキュメンタリー。142分。
あくまでもメインはインタビュイーの語りであって、被害状況や被災状況の悲惨さは一切画面に出てこない。 唯一、最初に登場するおばあさんが子供の頃に体験した昭和三陸地震の津波を紙芝居で語るところがイントロダクションのようなかたちで機能する。
つまり、今回の津波も地域では老人達から聞かされていた話しで、突然襲ってきた全く未知の災害ではなかった。それでも、それが実際に起こると、みんな家族を捨てて「てんでんこ」で逃げるしかないものだった、と。
監督のふたりは車で北から南へ(撮影はその順番ではなかったらしいが)海沿いを走り、全部で8組の被災者達を記録していった。記録作業は各組約3時間程かけて、この映画ではそのうち6組分の語りが編集されている。 この記録作業は仙台を拠点に現在も続けられていて、今回出てこなかった2組の語りも今後別のかたちで世に出る可能性はあると。(続編は『なみのこえ』だという - )
出てきたのは最初に老姉妹ふたり、消防団の3人、大切な親友を失ったおばさん、市会議員のおじさん、津波で家ごと内陸まで流されていった夫婦ふたり、まだ若い姉妹ふたり。
真ん中の2組は個人で、これに対面するのはインタビュアー(監督のひとりひとり)で、それ以外はお互いが向い合って語り合うかたちを取る。 この切り返しがこちらの真正面を貫いてくるのでちょっと不思議な、こう言ってよいのかどうかわからないが - 心地よさをうむ(技術的にどうやったのかはいろんなところに出ているのでそちらを)。
少なくとも映画のなかの語りを聞く限りだと、編集は最小限、というか各組約20分で語られる内容はひとつのブロックとして切り出されて澱みなく流れて、そこに作為は感じられなかった。
彼らの豊かな、力強い語りを通して、(彼らと実際出会って対話したかのように)見たひとひとりひとりがいろんなことを感じ考えるはずで、だから、見て、考えてくださいとしか言いようがないのだが、映画としてはっきりと語りかけてくることがいくつかあるように思ったの。
出てくる誰もが悲惨だったあの日のことを語りつつ、この体験はあなたには想像もつかないしわかってもらえないだろう、或いは、あれがどんなに辛かったか、辛いものか想像してほしい、というようなべたべたした態度を取ろうとはしない。あの日起こったことは自分にとってどういうことだったのか、それを通過して生きている今の自分ができることはなんなのか、を自分で考えて、自分の言葉でなんとか伝えようとしている。 あれは、理解不能な、共有不能な出来事ではないように思うのだがどうか、と。
あたりまえの話しだが、「津波てんでんこ」で逃げのびた彼らの経験はひとりひとり全く異なるものだ。そこに「被災者」というラベルを貼ってその物語を特殊ケース扱いしてしまう危うさを示す。 この映画は、そうではないかたちで残せる記録のありよう、を模索し、それに成功していると思う。
そして、各自が個別の経験を語っているのに、そこに映画作品としての纏まりをもたらすものがあるのだとしたら、それがタイトルの「なみのおと」で。
こういうことが起こってしまう土地に、それでも住もうと思うのか、それは何故か、と問われて自分も家族もずっと「なみのおと」が聞こえる場所で生きてきた。それがない場所で生活することがどういうことかわからないのでここに残る、他にはいかない、というようなことを言う。
圧倒的な「なみのちから」によって生活の大部を失ったにも関わらず、それでも「なみのおと」と共に生きようとする(生きようとしてきた)人々の意志と力、そして知恵。
(大学のときに少しだけ勉強した水俣 - 不知火のことも思いだす)
この声をきちんと聞くことなしに「復興」とか「311以降」なんて軽々しく口にすべきではないの。
という具合に、いくらでもいろんなことを考えてしまうのであるが、それはやはりそれぞれの語りがほんとうに豊かで感動的で、おもしろいからなの。 特に最後から2番目の夫婦のお話と、最後の姉妹のお話、なんてしっかりした、落ち着いた目線なんだろう、とあきれてしまう。(自分にはぜったいできない)
(ひょっとしたらどこかにあるのかも、だけど)911の後にも、こういうドキュメンタリーは撮られるべきだったのではないか、とか。
ロカルノ映画祭での上映後の反応はどうだったのだろうか。
世界中のひとに見てほしいんですけど --
8.12.2012
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