4.05.2015

[film] ハナコサン (1943)

29日の日曜日、阿佐ヶ谷で見ました。
バウスがなくなってから吉祥寺からすっかり足が遠のき、そういえば阿佐ヶ谷も最近行ってないかも、と思ったらおもしろそうな特集 - 『春爛漫 歌と踊りの銀幕祭典 Dancing,Singing!』 - をやっていたので行ってみよ、と。

日曜日のお昼から満員になっていました。
杉浦幸雄が『主婦の友』に連載していた漫画『銃後のハナ子さん』が原作で、冒頭に漫画のキャラクターの書割りの裏から彼らを演じるひとりひとりが紹介されて出てくる。 昭和14年、ハナコさん(轟夕起子)は両親と兄夫婦(兄は出征中で留守)とその息子と住んでいて、近所に丸の内で仕事をしている婚約者の灰田勝彦もいて、いつ結婚しようか(照)の状態から、結婚して新居を構えて子供が生まれて、夫に召集が来て、というあれこれが「お使いは自転車に乗って」とか「隣組」とか、みんなもよく知っている歌と踊りで朗らかに、という国策映画なの。

銃後の緊張を想起させるような出来事や世相が出てくるわけでもなく、二人や家族の絆を試したり強調したりするようなドラマがあるわけでもなく、ひたすら無邪気に朗らかにみんなが歌って踊って万事快調! のままに時間が流れていくので、どこかの国との間で戦争が起こっているなんて映画を見ているだけだとわからない。 勿論、映画を見ている我々はこのとき何が起こっていたのかを知っているわけで、そのギャップのなかに「圧力」とか「無理」とかを見てしまう - 彼らは明るいふり楽しいふりして歌って踊らされているのだな、と。  そしてマキノのすごさというのは、そういうのをわかっていながら寸分の違いもない舞踊とか笑顔の束として構成してつーんとしていることなの。

終りのところ、ハナコさんは出征が決まった夫に何かしてあげたいわと言い、夫は「お前の好きなことをすればいい」と応え、ハナコさんはじゃああたしでんぐり返りするわ、と言って楽しそうにでんぐり返しを繰り返す。 更にその後でおかめのお面をつけて踊りまくる。 出征の、別れの場面でぜったいに楽しいわけがないのに異様に楽しそうにやる。 ほんとはびーびー泣いてハグとかしたいに決まっているのに。

で、この後で親子3人の後ろ姿が畑の向こうに消えていくところで終るのだが、その前があんなふうに不気味で変なので、ああこの3人は地の果てに消えようとしているんだな、と思えてしまう。
どんなに国策がぶいぶい言ったところで、ざまあみろ、みたいな意気を感じるの。

最近の国策プロパガンダ映画としか思えないようなあれらよかぜんぜん格上なのは言うまでもないわ。
あ、比べちゃいかんか。

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