4.17.2011

[film] Heaven Can Wait (1943)

9日からシネマヴェーラではじまった『映画史上の名作5』。
ほんとにまじで名作だから。 みれるだけみることよ。

でも土曜日は髪切ったあとで一本だけ、もちろんルビッチの『天国は待ってくれる』(1943) ね。
こういうどよーんとした時節にはホークスとルビッチさえあれば、あとはなんにもいらないはず。(いえ、言ってみたかっただけなの)

地獄の入り口に品の良さそうなおじいさん(死んでほやほや)がやってきて、地獄の門番がどうしました? って聞いたら、わたしみたいな輩は地獄に落ちるしかないと思ったものですから、と慎ましく身の上話を始めるのね。 どっかの落語噺みたいに。

19世紀末、NYの資産家のおうちに生まれた彼は、乳母との三角関係にはじまって、えんえん懲りない女遊びを繰りかえしていって、ある日、本屋(5thにあったBrentanoなの)で運命の女性と知りあって痺れてみたら彼女は従兄弟の婚約者だった、と。

従兄弟は彼とはちがって真面目で優等生でよいこで、でも彼女の夫になれるかというと、断固そうは思えない。ぜったい反対。そんなのがまんできねえ。
そういうわけで、かっぱらうことにした、と。

それにしても、彼が彼女を口説くときの台詞まわし、すごいねえ。
あんなふうに一本釣りで引っ掛けられるなんて、どこでどんだけどんなふうな修練積んだんだかたんなる天才なのか。 んで、詐欺師みたいにくどき倒して相手を混乱の渦に叩きこんで、婚約パーティーで、親族のまんまえ、どまんなかでその彼女をひょいって抱き抱えてすたこら持っていっちゃうとことか、被害者側のことを考えると地獄に堕ちるのもやむなしという気がしないでもないが、お見事、としか言いようがない。 

で、この略奪〜逃走は結婚後、怒ってあきれて実家に帰った彼女相手に再び繰り返されるの。
そんなに好きだったんだ... ていうよか、運べそうだったもんだからつい、みたいな軽いとこが憎めないの。 このぎりぎりのとこで憎めないキャラが強引なアクションと合体したところにルビッチのマジックの基本があるのね。

このかんじで、ものすごいどんでんや、大爆発が起こるわけではなく時間は淡々と流れて行って、やがて妻との別れのときがやってくる。 彼女との最後のダンスのとこは、誰が見たって泣いちゃうねえ。

妻のMarthaを演じたGene Tierneyの瞳のほんとうに透明に澄んだ青さを見ていると、「天国は待ってくれる」の前にくるのは、「あなたのなかに天国がある限り」なんだとおもう。 宗教とか天啓とかそういうの一切なしで、誰であろうと「天国は待ってくれる」ことを、ごくあたりまえのように叩きつけるのである。
ルビッチの神業て、こういうところにあるのね。

ラストで、エレベータで「上」にいくように指示されたDon Amecheは、この約40年後、おんなじように、死なない域としての「上」をめざすことになる。 
そう、"Cocoon" (1985)ですね。 あーなんか久々に"Cocoon"みたい。すごくみたい。

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