2.07.2018

[film] Phantom Thread (2017)

いろいろあるけどこっちから書く。
3日の土曜日の夕方、Picturehouse Centralで見ました。 70mmプリントでの上映。
いちおう念のためV&Aでのバレンシアガの展示を - 3回目くらい – を見てから行った。

この週の前半にはSouthbankで、Jonny Greenwood氏も登場してフルオーケストラ伴奏のついたPreviewがあったのだが、最初はリリースされた状態のままで見たほうがよいかと思って行かなかった。

Reynolds Woodcock (Daniel Day-Lewis)はロンドンのアトリエに籠って一日中ずっと服飾のことしか考えていないような職人気質のデザイナーで、根を詰めすぎてきりきりしてきたのでアシスタントのCyril (Lesley Manville)から田舎で少し休んでいらっしゃいなと言われて、車を飛ばして田舎にいって、滞在先のダイニングでウェイトレスをしていたAlma (Vicky Krieps)と出会う。

彼は彼女になにかを見たのかなにかが湧いたのかDinnerに誘って、そのまま彼女をアトリエに連れていってその場で布を切ったり被せたり包んだりして、このままここにいてくれないか、と。

映画はここからふたりの恋の行方を追っていくのだが細かいことは書いてもしょうがない気がして、それは布や糸の襞とか肌理とか紡ぎとか – 70mmで再現される驚異的な生々しさ(撮影はPTA自身だって)を見てほしい – それらが気の遠くなるような工程を経てドレスになっていくのを文章で書いたり追ったりするのと同じくらいの徒労感をもたらすなにかで、要するにまずは溜息つきながら映画を見たほうがよいから見て。

Daniel Day-Lewisはこの作品を最後に引退すると、その理由として哀しすぎてやってられなくなったから、とどこかで言っていた気がするのだが、これが本当だとしたら終盤にものすごい惨劇とか破局が待っているのかも、と少しどきどきしていた。でもボーリングのピンでゴンも縫い針でめった刺しもない、画面はスリラーやサスペンスの尋常ではない緊張感(なんであそこまで..)を最後まで保ちつつ、それでもあんなところに、あんなふうに着地してしまう恋愛映画なのだった。

“Punch-Drunk Love”が突然に出会って爆走してしまう恋の驚異とかその打突の強度を描いていたのだとすれば、これはその針の穴を抜けた糸たちがいろんな直線や曲線の上で縫ったり撚られたり重ねられたりを通して一枚の布やドレスにゆっくりと浸透して色や模様の一部になっていく様を - 恋愛はどうやって恋愛として揺るぎないなにかに変貌していくのかを追ったもの、と言えるのかもしれない。

あるいは、どれほどの時間を費やし意匠を凝らしたドレスでも、そのひとの皮膚そのものになることはできず、その表層を覆うことしかできない、あるいは、そのドレスが永遠の皮膚になりうるのだとすれば、それは亡霊になった人に対してのみではないか、とか。延々に互いに惹かれあって張り合ってきた人とドレスのありようを、この映画の恋愛に重ねてしまってもよいのかどうか、まだ考えているのだが、とにかく肌の表面と布の裏面で、表面をかすったりこすったり覆ったりするばかりで、両者がひとつになることはない。できない。

両者の間に強い衝動や意図や善意や悪意や辛抱が横たわっていることを向かいあったふたりは互いに知りようがなくて(どちらもそんなのわかるでしょ、くらいにしか思っていなくて)、探りあったり確かめあったりどつきあったりしなければ明らかにはされなくて、それはそれはうんざりするようなやわやわしたどうしようもない何か(亡霊?)で、肌に刻印されるような強いなにかを望んでもどうすることもできず、その緩さ儚さ曖昧さをどうしようもなく哀しい、という人がいることはわかる。恋なんてしないに越したことはない、とか。

そう、これは“Punch-Drunk Love”以来となるPTAの待望の恋愛映画で(て書くと、いやPTAの映画はいつも、とかいう人がいるのはわかるけど)、あの場所から15年経つとああいうとこに行くのだなあ、という感慨もあるし、自分が知っている恋愛ロマンものとしてはものすごく変で異形で、でもゴージャスで、全体としてはやっぱり異様だと思うのだが、トラウマのような強さで刻んでくる。恋するふたりが向かう先はそういうところなのかもなー、とか。(おてあげ)

ファッションとお料理が大好きなひとはどっちにしても必見。ウェルシュ・ラビットとラプサンスーチョンの組合せはこんど試してみよう。 上映館の近所にあるレストランは、バター控えめの”Phantom Thread”コースとかやればいいんだよ。(あーめん)

Jonny Greenwoodの音楽、びっくりするくらいよかった。これまで映画音楽作家としてはどうかなー、だったのだが、こんどのはすばらしい。映画のほうが彼の音に寄っていったかんじもあるかも。

主演のふたりは申し分なくて、加えてアシスタント役のLesley Manvilleさんがとても素敵で、彼女もうじき、Jeremy Ironsと舞台でEugene O'Neillの”Long Day's Journey Into Night”をやるの。行きたいかも。ロンドンの後にはBAMに行くのね。

そして最後に、Jonathan Demmeに捧げられていることを知る。

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